KADOKAWA Technology Review
×
音や匂いを街づくりに生かす「センサリー・アーバニズム」の発想
Amrita Marino
スマートシティ 無料会員限定
Why sounds and smells are as vital to cities as the sights

音や匂いを街づくりに生かす「センサリー・アーバニズム」の発想

視覚的な情報だけでなく、聴覚や嗅覚における経験を住み良い街づくりに取り入れる「センサリー・アーバニズム」が注目されつつある。騒音や悪臭といったネガティブな要素だけでなく、ポジティブな影響を調査する研究も進められている。 by Jennifer Hattam2022.06.24

デイヴィッド・ハウズが故郷のモントリオールを思い浮かべるとき、カリヨン(組み鐘)の調和のとれた音色や、薪火で焼くベーグルの香りは付きものだ。だが、彼が地元の観光局を訪ねて、街の匂いや味、音を聞くのにおすすめの場所を尋ねても、ポカンとした顔をされるだけだった。

「観光局の職員が知っているのは見どころだけで、『聴きどころ』や『嗅ぎどころ』といったモントリオールの感覚的魅力については知らないのです」。今秋に出版予定の『The Sensory Studies Manifesto(感覚研究マニュフェスト)』の著者で、コンコルディア大学感覚研究センター(Centre for Sensory Studies)の所長であるハウズは言う。感覚研究センターは、「センサリー・アーバニズム」と呼ばれることが多い成長分野の拠点となる研究施設だ。

ハウズ所長のような世界中の研究者たちは、非視覚的情報がどのように都市の特徴を形成し、住みやすさに影響を与えるかを研究している。ローテクなサウンド・ウォーク(周囲の音を聞くことを主とした散歩)や「匂いマップ」から、データ・スクレイピング、ウェアラブル端末、実質現実(VR)に至るまでさまざまな方法を用いて、都市計画を制約する視覚的なバイアスと戦っているのだ。

「10分間目を閉じるだけで、その場所に対する印象がまったく違ってきます」。学者であり、音楽家でもあるオーズ・エネルは言う。

エネルは、目隠しをした参加者がさまざまな場所で聞いた音を説明するサウンド・ウォークを、イスタンブールで何年にもわたって開催してきた。この研究の結果、エネルは交通騒音を和らげるための植物を植える場所や、心地よい海の音を増幅するウェーブ・オルガンを設置できる場所を突き止めることができた。海辺周辺でも海の音がほとんど聞こえないことはエネルは驚いたという。

地元関係者はエネルの調査結果に関心を示したが、都市計画にはまだ反映されていないという。しかし、このような感覚環境に関する市民のフィードバックは、ベルリンではすでに活用されている。ベルリンでは、無料のモバイル・アプリを使って市民が割り出した静かな場所が、市の最新の騒音対策計画に盛り込まれている。現在のベルリンはEU法により、静かな場所における騒音レベルが上昇しないよ …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る