キーウの放射線専門家が語る
ウクライナ原発事故のリスク
ロシア軍は現在、ウクライナ国内の2つの原子力発電所を占拠している。今後懸念されるリスクについて、チェルノブイリの事故対応にも関わったウクライナ国立放射線医学研究所の専門家が現地から語った。 by Jessica Hamzelou2022.04.06
2月24日のウクライナ侵攻以降、ロシア軍はこの国に死と破壊をもたらしている。だが、ウクライナの首都キーウ(キエフ)にある国立放射線医学研究所の外部被曝研究室のヴァディム・チュマック室長は、ロシア軍が原子力事故を引き起こす可能性もあると語る。
ロシアは、ウクライナ国内の2つの原子力発電所を占拠した。発電所の一部の原子炉は電源から切り離され、放射線量を監視する装置も機能していない。原子力事故の可能性が懸念される。
「原子力事故を回避する必要性は日に日に高まっています」。国際原子力機関(IAEA)のラファエル・マリアーノ・グロッシー事務局長は、3月23日に公開された映像でそう語った。
「特に心配なのは、核の大災害が起こった場合に科学者が観測や影響の見積もりができなくなる恐れがあることです」とチュマック室長は言う。同室長は放射線暴露を監視する方法を研究しており、1986年にチェルノブイリの事故で原子炉が爆発した際には線量評価で重要な役割を果たした。現在は、ロシアによる侵攻で原子力事故が起こった場合に備えてキーウにすぐに駆けつけられる距離にとどまっている。
チュマック室長は、キーウ郊外の滞在先からMITテクノロジーレビューのインタビューに応じ、希望や恐怖、病院からの放射線漏れのリスク、さらには、国内の線量モニタリング装置の多くが老朽化している事実について語ってくれた。
なお、以下のインタビューは、発言の趣旨を明確にし、長さを調整するため、編集されている。
◆
——ロシア軍の侵攻があってから、仕事や研究はどのように変わりましたか?
以前は、研究室で日々の業務をこなしていましたが、侵攻を受けて場所を移しました。キーウのテレビ塔が攻撃を受けましたが、あの場所は私の研究室から1キロメートルほどの距離です。また、軍需品の工場も攻撃されましたが、そこも1キロメートル以内の距離です。ですから、この一帯はとても危険です。まさに砲火を浴びている状態で、とどまることはできませんでした。今、研究室の職員は全員リモートで働いています。
——ウクライナでの原子力事故について心配していますか?
現在、ロシア側が掌握している大型の核施設が2カ所あります。1つがチェルノブイリ、もう1つがザポリージャです。ザポリージャには6つの原子炉があり、使用済み燃料も保管されています。使用済み燃料はとても危険です。放射線量の高い物質を大量に含んでいますから。
使用中のものは使用済み燃料よりはるかに安全です。そうした核燃料の集合体が炉心で何年か使用されると、核分裂によって生成された放射性物質が大量に蓄積されます。ヨウ素やセシウム、ストロンチウムなどです。ザポリージャに保管されている燃料集合体が何らかの損傷を受ければ、チェルノブイリ事故に匹敵する放射線緊急事態となる恐れがあります。
——原子炉自体に関してはどうでしょう?
頑丈で容易には破壊できない特別な建屋に収納されていますから、原子炉自体が破壊されることは考えにくいです。大型ジェット機が真上に墜落しても壊れないような設計になっています。
しかし、ロシア軍はザポリージャにミサイルを撃ち込みました。まったく常軌を逸しています。建屋を破壊できる武器も持っているかもしれません。
ですが、本当に危険なのは使用済み燃料です。燃料棒の束である集合体も同じ場所に格納されています。
——なぜ使用済み燃料に大きな危険性があるのでしょうか?
使用済み燃料集合体の保管場所は、戦車やミサイルによる攻撃や、ロシアが今ウクライナに仕掛けているような攻撃を想定して設計されているわけではありません。核施設の安全性評価においては、最悪の事態である「予測可能な最大の事故」を想定して設計されます。しかし、それ以上の事態には耐えられないのです。
例えば、福島では想定外の事態が起こりました。施設を守るため、津波を想定した対策が取られていまし …
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