KADOKAWA Technology Review
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南極「終末の氷河」の危機を地球工学は救えるか?
Kari Scambos/NSIDC
気候変動/エネルギー Insider Online限定
The radical intervention that might save the "doomsday" glacier

南極「終末の氷河」の危機を地球工学は救えるか?

南極のスウェイツ氷河東側の棚氷の亀裂が広がっており、棚氷が切り離された場合、海面上昇で何千万人もの人々の生活に影響が出る可能性がある。ある研究チームは、海中にカーテンを設置することで、これを食い止められるかどうかを調べている。 by James Temple2022.01.17

科学者の国際チームは2021年12月に、南極のスウェイツ氷河東側の棚氷(氷河から海に押し出されたまま、氷河につながっている氷)に巨大な亀裂が生じており、その亀裂が大きくなっていると報告した。スウェイツ氷河は南極大陸の西部に120キロメートルにわたって広がる、米フロリダ州とほぼ同規模の氷河である。

研究チームは、早ければ5年のうちに、亀裂が入っている棚氷が切り離されて海に流れ出してスウェイト氷河を支えている支柱がなくなる可能性があると警告した。連鎖反応が起これば、さらに高くそびえる氷の崖が露出し、粉々に砕けて崩壊するかもしれない。

「国際スウェイツ氷河共同研究(ITGC:International Thwaites Glacier Collaboration)」の研究者らによると、「終末の氷河(Doomsday glacier)」と呼ばれる同氷河が完全に崩壊した場合、海面が60センチメートル上昇し、南極周辺のほかの氷河も同様の崩壊プロセスに引きずりこまれた場合には海面が約1.5メートルも上昇する可能性があるという。いずれにしても、世界中の沿岸地域の都市が洪水に見舞われ、何千万人もの人々の生活が脅かされることになる。

こうしたすべてのことは喫緊の課題を提示する。この現象を食い止めるためにできることはあるのだろうか? ということだ。

フィンランドのラップランド大学北極圏センター(Arctic Centre)の氷河学者であるジョン・ムーア教授は、気候変動の原因となり、棚氷の下の海水を暖めている温室効果ガスの排出を世界各国が直ちに停止したとしても、スウェイト氷河の重要な支柱をぶ厚くして再度安定させることはできないだろうと述べる。

ムーア教授は、「スウェイト氷河の崩壊を防ぐ唯一の方法は、氷床を物理的に安定させることです」と主張する。

そのために必要となるのが、氷河を積極的に保護するための画期的な対策となる、地球工学(ジオエンジニアリング)と呼ばれる手法だ。

ムーア教授らは、重要な氷河を守るために人類がとれる手段を提案している。提案の中には、極地で人工的な支柱を建設する巨大プロジェクトや、自然に手を加えて既存の構造物を回復するような構造物を設置する計画などが含まれている。基本となる考え方は、問題の原因となっている部分にほんの少しの工学的な対策を講じることにより、すべての沿岸地域や低地の島国が直面する物的損害や洪水の危険性、被害を最小限に抑えるのに必要な対策プロジェクトの費用を大幅に削減できるというものだ。

地球工学の手法がうまくいけば、重要な氷床をあと数世紀は保てる可能性があり、温室効果ガスの排出量を削減して気候を安定させるための時間を稼げると、研究チームは主張している。

しかし、この手法には、物流、エンジニアリング、法律、財政といったさまざまな面で膨大な課題がある。また、どれほどの効果があるのか、最大級の氷河が失われる前に実施できるかどうかは、まだ明らかになっていない。

暖められた水の流れの方向を変える

ムーア教授とプリンストン大学のマイケル・ウォロビック博士らは、2018年に発表した記事や論文の中で、大規模な土木工事によってスウェイツ氷河をはじめとする重要な氷河を保全する可能性について論じた。そのためには、大量の資材を輸送したり、浚渫(しゅ …

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