オキュラスVR、売上不足でゴーグルの展示販売を大幅縮小
フェイスブックのVR部門オキュラスVRは、売上不足のため、量販店でのVRゴーグルの展示販売を大幅に縮小することにした。ザッカーバーグCEOは、テクノロジーの成熟には10年かかるという。 by Rachel Metz2017.02.09
オキュラスが量販店に設置したVRゴーグルの体験コーナーに客は来なかった。
フェイスブックの実質現実(VR)部門オキュラスVRは、500カ所の体験コーナーをベスト・バイ各店に開設し、VRゴーグル「オキュラス・リフト」を買い物客に体験させていた。しかしビジネス・インサイダーの2月8日の記事によれば、このうち200カ所の体験コーナーは、客足が伸び悩んでおり、近く閉鎖される見通しだ。
ビジネス・インサイダーの取材に応じた体験コーナーの従業員によれば、何日もの間一度もデモ体験した人がいないこともよくあったという。ビジネス・インサイダーが入手した内部メモによれば「店頭デモのパフォーマンス」の問題に触れ、体験コーナーの多くを閉鎖する計画が詳述されている。ただしVRゴーグルは引き続きベスト・バイで販売される。
オキュラス・リフトは昨年リリースされた消費者向けVRゴーグルのひとつだが、VRテクノロジーは発展途上の段階だ。ゴーグルはかさばるし、オキュラス・リフトのように高精細なVR体験が可能な機器でも、高価なPCに常にケーブルで接続しておく必要がある。たとえすべての機材をそろえたても、VR世界でできることはまだまだ少ない。
こうした問題は、現在の売上高に反映されている。市場調査会社カナリスの推定によれば、昨年200万台以上のVRゴーグルが出荷された(オキュラス・リフトの出荷数は、ソニーのプレイステーションVR、HTCのViveに次ぐ3位で約40万台)とはいえ、ゲーム機に比べれば微々たる数だ。現在業界トップの販売数を記録しているソニーのPS4は、600万台以上をクリスマス・シーズンだけで売り上げた。
オキュラスのアンドレア・シューベルト広報部長によると、体験コーナーの縮小は「繁忙期の終了」にともなう措置であり、引き続き全米で数百あるベスト・バイの大型店舗限定で体験コーナーを開設するという。またシューベルト広報部長は、今年いっぱい、オキュラスは各店舗や地元コミュニティでVRテクノロジーの体験イベントを開催予定だという。
「実質現実に慣れ親しんでもらうには実際に体験してもらうのが一番だという、当社の考えは変わりません」(シューベルト広報部長)
VR業界専門のアナリストの一部は、ホリデー・シーズンの繁忙期終了後、体験コーナーの多くを閉鎖するのは理にかなっているという。一方、VRゴーグルの販売数が飲み悩んでいるのは、VR機器が多くの人にとってなじみにくく、魅力に欠けているせいだという。
「量販店の店頭で客を座らせ、ゴーグルをつけてもらい、システムを起動して実質現実を体験してもらうのはなかなか難しいことですよ」とCCSインサイトのアナリスト、ジェフ・ブレイバーはいう。
実質現実ではゲーム以外にもさまざまなことができると消費者を納得させ、さらにコンピューターに接続しなくても済むVRゴーグルがリリースされれば、実質現実を売り込むのは現在よりも楽になるだろう、とブレイバーは予想している。オキュラスはすでにワイヤレス・ゴーグルをデモンストレーションしたが、店頭販売がいつなのかは未発表だ。
ガートナーのアナリスト、ブライアン・ブラウは、体験コーナーの大幅削減は、有線のVR機器をとりまく状況全体を反映したものだと見ている。テクノロジーそのものは、さしあたり商品を消費者に提供できる段階までは達したが、大規模な市場を形成するにはまだ未成熟だ。今後1、2年かけてVRゴーグルの改良が進めば、この状況は変わるだろう、とブラウは考えている。
「私からすると、実質現実はすでに終わりつつあるテクノロジーというより、単に人々が望むような形にまで成熟するには時間がかかるだけだと考えています」とブラウはいう。
フェイスブック創業者のマーク・ザッカーバーグCEOも同じ考えだ。ザッカーバーグCEOは2014年、30億ドルでオキュラスの買収を率いたが、実質現実を大衆向けに展開するには10年はかかるだろうと述べていた。先週開催されたフェイスブックの業績報告会でもザッカーバーグCEOはこの長期的な姿勢を崩さず、投資家にはもうしばらく我慢してほしいと伝えた。フェイスブックはたとえオキュラスから「しばらくの間はそれほど利益が見込めない」としても「実質現実の分野に多大な投資を」する予定だとザッカ―バークCEOはいう。
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- レイチェル メッツ [Rachel Metz]米国版 モバイル担当上級編集者
- MIT Technology Reviewのモバイル担当上級編集者。幅広い範囲のスタートアップを取材する一方、支局のあるサンフランシスコ周辺で手に入るガジェットのレビュー記事も執筆しています。テックイノベーションに強い関心があり、次に起きる大きなことは何か、いつも探しています。2012年の初めにMIT Technology Reviewに加わる前はAP通信でテクノロジー担当の記者を5年務め、アップル、アマゾン、eBayなどの企業を担当して、レビュー記事を執筆していました。また、フリーランス記者として、New York Times向けにテクノロジーや犯罪記事を書いていたこともあります。カリフォルニア州パロアルト育ちで、ヒューレット・パッカードやグーグルが日常の光景の一部になっていましたが、2003年まで、テック企業の取材はまったく興味がありませんでした。転機は、偶然にパロアルト合同学区の無線LANネットワークに重大なセキュリテイ上の問題があるネタを掴んだことで訪れました。生徒の心理状態をフルネームで記載した取り扱い注意情報を、Wi-Fi経由で誰でも読み取れたのです。MIT Technology Reviewの仕事が忙しくないときは、ベイエリアでサイクリングしています。