2018年にIBMのエンタープライズ・コンサルティング・グループに入社したケイラ・リー博士の仕事の一つは、量子コンピューティングに関心を持つべきだと顧客を説得することだ。それぞれのクライアントに対して、「少し複雑で、科学プロジェクトのように聞こえる量子コンピューティング技術を、どうやってクライアントと関わりがあるものとして伝えるのか?」という同じ問いの答えを考える必要があるとリー博士は語る。
その仕事と、IBM-HBCU量子センターの立ち上げを主導するというリー博士の別のプロジェクトの間には類似点がある。IBM-HBCU量子センターは、歴史的黒人大学(Historically black colleges and universities、HBCU)23校と提携することで、黒人の学生や学部全体に量子コンピューティングをより身近なものにすることを目的としている。リー博士は科学・技術・工学・数学分野(STEM)の黒人学生や学者がこの新しい分野で活躍できるような基盤を提供したいと考えている。
IBM-HBCU量子センターとの提携によって歴史的黒人大学の各校の学部生、大学院生、および教員は、IBMが提供するクラウドベースの量子コンピューティング・サービスにアクセスして研究に利用できるようになる。同センターはまた、量子プロジェクトを研究している黒人の学部全体を支援するだけでなく、「こうした研究プロジェクトに種をまく」ための資金も提供するとリーは説明する。その一環としてIBMは最近、国際光工学会(SPIE:Society for Optics and Photonics)と提携して、IBM-HBCU量子センターのメンバーを対象とした量子光学・光工学分野での貢献を称える賞を創設した。
リー博士はこのプロジェクトを、黒人学生の数が圧倒的に少ない分野で黒人学生を支援するための手段だと考えている。2017年に米国全体で物理学の学士号を取得した人のうち、黒人の学生はわずか3パーセント、物理学の博士号取得者ではわずか2パーセントだった。米国立科学財団(NSF)によると、博士号を取得した黒人学生の3分の1は歴史的黒人大学で学士号を取得しているが、これまでに歴史的黒人大学で量子情報分野を研究・調査する機会を提供しているところはほとんどない。
リー博士はその状況を変えたいと考えている。IBM-HBCU量子センターが量子情報分野に「関与するための明確な機会」を作り、学生に「量子科学者の姿」をシンプルに示したいと考えている。量子コンピューティングは非常に新しい分野なので、これは特に重要なことだとリー博士は言う。「1960年代に新しい計算モデルが生まれたときと同じように、今は新しい計算モデルの黎明期です。現在、私たちが取り組んでいるのは、量子ビットの実装はどのようなものなのか? どうすればノイズの影響の少ない量子ビットを作ることができるのか? そのアーキテクチャはどのようなものか? ということです」。
しかし、量子コンピューターには、さらなる課題があるとリー博士は考えている。「私は誰が量子コンピューターを使用できるのか? ということの方に着目しています」。
この最先端技術に取り組む機会を誰が得るのかという問題は、この分野の発展のあり方を形作ることになる。リー博士は、すでに人種的偏見の問題に悩まされていることで知られている人工知能(AI)を指摘する。量子コンピューティングでは機械が複雑で不可解になり、またこの分野は「AI分野よりもさらに黒人の数が少ない」ため、この問題は指数関数的に悪化する可能性があるとリー博士は語る。
(Eileen Guo)
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