エディターズ・レター:気候変動の影響はまず「水」に現れる
気候変動の影響が最初に現れるのが「水」だ。今後は洪水や山火事が増えたり、両方同時に襲ってくることになるだろう。「水」特集に寄せる、米国版編集長からのエディターズ・レター。 by Mat Honan2022.02.02
この特集の最終作業に取り掛かっていた時、バンクーバー郊外の幹線道路が浸水している映像をツイッターで見つけた。映像はそれだけではなかった。このブリティッシュコロンビア州の人口が密集した中心都市は、「大気の川」が駆け抜けることで起きた洪水や土砂崩れによって、カナダの中で孤立していた。カナダでもっとも活気のあった港は鉄道から切り離され、コンテナが取り残されていた。地すべりで寸断された幹線道路では、何百人ものドライバーを軍用ヘリで救出しなくてはならなかった。カナダの別の場所へ道路で行くとしたら、米国経由で迂回するしかなかった。
「熱のドーム」がカナダ北西部の太平洋側の大部分を覆い、この地域の数多くの街で最高気温の長年の記録が更新された。暑く乾燥した夏となり、大洪水が発生したのだ。州全体が8月の終わりまでに干ばつに襲われた。温帯雨林の原生林が広がるバンクーバー島は、ブリティッシュコロンビア州でもっとも深刻な「レベル5」の干ばつに見舞われた。何百件もの自然火災が発生し、地域は灰で覆われ、バンクーバー市自体も煙に飲み込まれた。秋の洪水でそれほど大きな被害が生じたのは、夏の干ばつで土地が黒焦げとなっていたためだ。茶色い泥水に覆われた幹線道路の映像を見ながら、私はこの特集の前提となる悲しい縮図を見ていることに気づいた。人類の大半は、水を通じて(過剰な量の水、もしくは水不足によって)気候変動の影響を最初に実感する。今後、洪水や山火事がさらに起きる。あるいは、その2つが同時に発生する。本特集では、人類が気候変動の影響を実感し始める中で、水循環の変化が世界各地でどのように現れているのかを紹介している。
ジェームス・テンプル上級編集者は、海水温の上昇による大西洋の海流の乱れや、将来予測を試みる科学者に焦点を当て、そうした変化の複雑さや不確実さについて取り上げている。映画『デイ・アフター・トゥモロー』のようなことにはならないかもしれないが、悲惨な状況には変わりないだろう。
米国西部の乾燥地帯を取り上げている記事もある。マーク・アラクスは、カリフォルニア州の痛ましくも美しい旅へと読者をいざなう。過去150年ほどの間、灌漑によって農場や街が支えられてきたが、やがて水源が枯渇してしまった。ケーシー・クラウンハートは「干ばつに強い街」と言われたテキサス州のエルパソを訪ね、脱塩プラントのそばでは配管が破裂し、貯水池が干上がっているのを見た。
水や気候の変化はすべての人に影響を与えており、ときに驚くようなかたちとなって表れる。ケンドラ・ピエール=ルイスは地下水位の上昇に光を当てている。沿岸部では地下水は海水位と複雑に連動しているが、その上昇はしばしば見過ごされがちな脅威である。下水管やガス管、護岸に至るまで、社会のインフラに壊滅的な結果をもたらしかねない。
デヴィ・ロックウッドは水と気候変動に関する本を執筆するため、その直接的な影響について20カ国で1000人以上の人々に話を聞いた。そして、科学界がそうした声に耳を傾けることの重要性を説いている。このほか、本特集ではケープタウンやメキシコシティ、ヴォルガ川、ジンバブエ、カラチに関しても紹介している。
私たちは当初から、地球規模の問題による人類滅亡を唱える人々に賛辞を送るような特集にはしたくないと思っていた。エリカ・ジーズは中国で、影響力のあるランドスケープアーキテクト、兪 孔堅(ユー・コンジエン)と面会した。兪の「スポンジ都市」構想は、水の「満ち引き」を都市部に復活させようとするものだ。マリア・ガルーチの記事は、人工衛星によるコンゴ川の流域の測定を取り上げている。またミーガン・テイタムは、「水の自給自足」を目指すシンガポールの野心的な計画を紹介している。
最後に、本特集のためにロビン・スローンが執筆した小説(日本版未掲載)を紹介しよう。そこには、すべてがどんな未来につながるのかが描かれている。結末をどのように解釈するかは読者の皆さんに委ねたい。
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- マット・ホーナン [Mat Honan]米国版 編集長
- MITテクノロジーレビューのグローバル編集長。前職のバズフィード・ニュースでは責任編集者を務め、テクノロジー取材班を立ち上げた。同チームはジョージ・ポルク賞、リビングストン賞、ピューリッツァー賞を受賞している。バズフィード以前は、ワイアード誌のコラムニスト/上級ライターとして、20年以上にわたってテック業界を取材してきた。