ファイザー製ワクチン、オミクロン株への効果は「大幅低下」
複数の研究チームの実験により、ファイザー製ワクチンの2回接種者が有する抗体の効果は、オミクロン株に対して大幅に低下することがわかった。ただし、3回目の接種により、ワクチンの予防効果が回復するとの結果も得られた。 by Antonio Regalado2021.12.10
ファイザーとバイオンテック(BioNTech)が共同開発した新型コロナウイルス感染症(COVID-19)ワクチンは、2回の接種ではオミクロン株の感染を防げないことが南アフリカとドイツの研究実験で明らかになった。3回目の追加接種(ブースター)または新しいワクチンが必要になりそうだ。
11月に南アフリカで初めて確認されたオミクロン株は、遺伝子の変異が多いため、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の従来株をベースとする現在のワクチンで得られる防護機能を「すり抜ける」可能性があるとの見方が科学者の間で出ていた。
今回発表された最初の研究実験の結果で、オミクロン株に対する従来株の抗体の効果は、従来株に対する場合と比べて25分の1から40分の1にまで低下することが示されたという。
バイオンテックのウール・シャヒン最高経営責任者(CEO)は12月8日の記者会見で、今回の結果は予防効果の「大幅な低下」を反映するものであると説明した。
シャヒンCEOは、オミクロン株に対する中和抗体の効果について、「今回得られたデータにより、ワクチンの2回接種が、感染や発症に対する高い予防効果を持たない可能性が高いことが示されました」と話した。現在ほとんどの国で、ワクチンの2回接種を受けた人は「完全接種者」と見なされている。
新たな変異株であるオミクロン株は、これまでの株に比べてワクチンの効果を回避する能力が高いようだ。「オミクロン株は免疫回避能力がはるかに高い変異株です」とシャヒンCEOは話す。
幸いにも、ファイザー/バイオンテック製ワクチンの3回目の追加接種を受けた人では、オミクロン株に対する抗体の効果がはるかに高まったという。3回目の接種を受けた人では、オミクロン株に対するワクチンの予防効果は従来と同程度に回復した。
今回の研究実験の結果により、各国政府はワクチン追加接種の提供を早めることになるだろう。米国では、11月19日から18歳以上の全員が追加接種の対象となったが、他の国々におけるワクチンの供給は不十分なままだ。
オミクロン株が広範囲に広がった場合、政府や企業は、ファイザー製ワクチンなどのmRNAワクチンをオミクロン株に対応できるようアップデートすべきかどうかを決める必要が出てくる。mRNAワクチンは、ウイルスのスパイクタンパク質の遺伝子のコピーを人体の細胞に送り込み、免疫反応を誘導することで予防効果をもたらす。
オミクロン株は、スパイクタンパク質の変異が30以上もあるため、オミクロン株特有の遺伝子コードを持つ新しいワクチンがより効果的になるだろう。
バイオンテックによると、同社はオミクロン株対応ワクチンをすでに設計しており、3月までに製造プロセス全体をシフトさせることが可能だという。「新たな変異株の設計図に変更するだけです」とシャヒンCEOは話す。「生産を始めてから、製造プロセス全体を切り替えるべきかを判断することになるでしょう」。
しかしながら現時点では、新しいワクチンが必要かどうかや、オミクロン株が人体にどのような悪影響を及ぼすのかについては不明だ。
ワクチン2回接種でもオミクロン株による死亡を防げるかもしれない。ワクチンによる免疫獲得には、抗体だけでなく、T細胞などの寿命が長い記憶細胞も関与するためだ。バイオンテックの研究によると、オミクロン株の変異のほとんどが、T細胞が標的とする部位以外で起こっているという。
従って、ファイザー製ワクチンの2回接種でも重症化を防げる可能性はあるが、1~2カ月分のデータが出るまで確証は得られないとシャヒンCEOは話す。
他の研究機関も、ファイザー製ワクチン2回接種の効果について、同様の結論に達している。12月7日には南アフリカの研究機関が、ファイザーのワクチンが作り出す抗体のオミクロン株に対する予防効果は「大幅に低下」すると発表した。
「オミクロン株では中和抗体の効果が大幅に低下していました」とクワズールー・ナタール大学のウイルス学者であるアレックス・シガル教授はツイッターで述べ、研究グループの 予備資料へのリンクも投稿した。
シガル教授の研究グループの実験では、オミクロン株のサンプルを使い、研究室にある人間の肺細胞に感染させた。その後、その細胞にファイザー製ワクチンを接種した12人から採取した血清を追加した(12人の中には新型コロナウイルスに感染したことがある人も含まれていた)。
すると、バイオンテックの研究結果と同様に、ワクチン接種を受けた人の抗体がオミクロン株のウイルスを「中和」する効果が従来に比べて大幅に減少していたことが判明した。一方で、新型コロナウイルスに感染したことのあるワクチン接種者の血液中の中和抗体の効果はそれほど落ち込んでおらず、ウイルスの活動をうまく抑えていた。
南アフリカの研究チームもバイオンテックも、感染歴のあるワクチン未接種者ついては報告していない。
シガル教授は、今回の研究結果は憂慮すべきものではあるが、恐れていたほど悪いものではなかったという。オミクロン株は変異の数が非常に多いため、従来株と同様に「ACE-2」受容体に結合して細胞に侵入するのかどうか疑問を抱く研究者もいた。シガル教授らの研究チームは、オミクロン株も細胞への侵入時にACE-2受容体を使うことを突き止めた。つまり、既存のワクチンと治療薬でも効果が見込めるということだ。
「想像していたよりも良い結果でした」とシガル教授はツイッターに投稿した。「オミクロン株がACE-2受容体を必要とし、免疫回避能力が不十分であることから、対処可能な問題だと言えます」。
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- アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
- MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。