「ニセの受容体」でウイルスを騙す、新型コロナ次世代治療法
新型コロナウイルス感染症の新たな治療法として、ウイルスが細胞に侵入するときの「受容体」に着目した方法が開発中だ。回復を早めると期待される「デコイ療法」とは何か。 by Tatyana Woodall2021.09.04
米国で新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)が変異を続ける中、研究者たちは、回復にかかる時間を短縮する新たなアプローチを含む、次世代の治療法の開発に取り組んでいる。
抗ウイルス薬、抗体医薬品、ステロイドなど、新型コロナウイルスに感染した場合の治療法はすでにいくつかあるが、米国と欧州の科学者たちは現在、ウイルスが通常結合する受容体のデコイ(おとり)を作って重症化を防ごうとする研究に取り組んでいる。
新たな治療法を開発するために、科学者たちはまず、ヒトのアンジオテンシン変換酵素2(ACE2)受容体というタンパク質を持ったマウスを作製した。ACE2受容体は細胞の表面に存在し、治癒、炎症、血圧の調節を助ける働きを持つ。
ACE2受容体は体中の細胞で見つかるが、特に肺や心臓、腎臓、肝臓などの、新型コロナウイルスが通常攻撃対象とする臓器に多く見られる。
本物のACE2受容体を守るために、偽物のデコイ受容体が担う働きは次の通りだ。
通常、新型コロナウイルスの表面にあるスパイクタンパク質は、ACE2受容体に結合して「鍵」のように働き、感染へのドアを開くような役割を果たす。しかし、デコイ受容体を患者に投与すると、スパイクタンパク質は本物のACE2受容体ではなくデコイ受容体のほうに結合してしまう。患者の症状の段階に応じて、デコイ受容体は静脈注射あるいは経鼻によって投与される。感染後にこの治療を実施することで、体内のウイルス量を減らし、回復を早めることができると期待されている。
ノースウェスタン大学の医学分野のダニエル・バトル教授が率いた研究では、新型コロナウイルスに感染させたマウスにこの治療を施したところ、軽症だけで済んだという結果が出た。一方、治療を施さなかったマウスは死亡した。
現時点では …
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