KADOKAWA Technology Review
×
始めるならこの春から!年間サブスク20%オフのお得な【春割】実施中
「非倫理的」なAI訓練データセット、削除するだけでは不十分
Ms Tech | Pixabay
人工知能(AI) 無料会員限定
Deleting unethical data sets isn’t good enough

「非倫理的」なAI訓練データセット、削除するだけでは不十分

人工知能(AI)の訓練用にはかつて、ネット上のデータを許可なく集められたものが使われた。後に批判され、データセットを撤回する例が相次いだがが、撤回するだけでは問題の解決にはならない。 by Karen Hao2021.08.23

2016年、マイクロソフトは、顔認識の進歩に拍車をかけることを期待して、世界最大の顔データベースを公開した。「MS-Celeb-1M」と呼ぶこのデータベースには、10万人の有名人の顔を撮影した1000万枚の画像が入っていた。しかし「有名人」といっても、その定義は曖昧なものだった。

3年後、研究者のアダム・ハーベイ(Adam Harvey)とジュール・ラプラス(Jules LaPlace)がこのデータセットを精査したところ、ジャーナリスト、アーティスト、活動家、学者など、仕事のためにネット上で活動している多くの一般人が見つかった。彼らはみな、データベースへの収録に同意していなかったが、彼らの顔写真は「MS-Celeb-1M」データベースにとどまらず、その向こう側へと渡ってしまった。大量の顔写真を集めたこのデータベースは、フェイスブック、IBM、バイドゥ、そして中国最大級の顔認識技術大手で、中国警察にシステムを販売しているセンスタイム(SenseTime)などの企業が研究に利用していた。

ハーベイとラプラスの調査から間もなく、ジャーナリストからの批判を受けたマイクロソフトは、「研究は終了した」とだけ述べてデータセットを削除した。しかし、この事件がもたらしたプライバシーに関する懸念は、インターネット上の永遠の地に残っている。さらに、問題はこのケースだけではない。

かつて、Web上の画像やテキストをスクレイピングすることは、現実世界のデータを収集する先進的な手法と考えられていた。しかし今では、GDPR(欧州データ保護規則)などの法律や、データ・プライバシーや監視に対して社会の懸念が高まったことにより、この行為は法的にもリスクが高く、不適切なものになっている。その結果、人工知能(AI)研究者らは、スクレイピングによって作成したデータセットを撤回することが多くなった。

しかし、新しい研究によれば、一旦作成し、公開したデータセットを撤回しても、問題のあるデータの拡散や不正利用を防ぐ効果はほとんどないという。この研究チームは、顔写真や人物画像を含むデータセットのうち最もよく引用されているものを3つ(うち2つは撤回されたもの)選び、それぞれが1000本近い論文でどのようにコピーされ、使用され、別の目的で再利用されたかを追跡した。

「MS-Celeb-1M」の場合、コピーされたデータが第三者のサイトや、オリジナルの上に構築された派生データセットに残存していた。このデータで事前に学習させたオープンソースのモデルも容易に入手できる。さらに、このデータセットとその派生物は、撤回後6カ月から18カ月の間に発表された数百本の論文で引用されている。

デュー …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
【春割】実施中!年間購読料20%オフ!
人気の記事ランキング
  1. Promotion MITTR Emerging Technology Nite #32 Plus 中国AIをテーマに、MITTR「生成AI革命4」開催のご案内
  2. AI companions are the final stage of digital addiction, and lawmakers are taking aim SNS超える中毒性、「AIコンパニオン」に安全対策求める声
  3. What is vibe coding, exactly? バイブコーディングとは何か? AIに「委ねる」プログラミング新手法
  4. Tariffs are bad news for batteries トランプ関税で米電池産業に大打撃、主要部品の大半は中国製
▼Promotion
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る