国連IPCC最新報告書、温暖化防止のカギは炭素除去テクノロジー
国連・気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が発表した最新の報告書は、温暖化の要因について人間の影響を疑う余地がないと指摘した。温暖化がどの程度まで進むかは、いかに迅速に二酸化炭素排出量を削減し、大気中の二酸化炭素を除去する方法を急速に拡大できるかにかかっている。 by James Temple2021.08.12
国連が8月9日に発表した待望の気候報告書は、地球温暖化の深刻な危機を防ぐためには、大気中の二酸化炭素の大幅な除去が不可欠だと改めて注意喚起している。しかし、そのために必要なテクノロジーはほとんど存在せず、導入がきわめて困難であることも強調している。
気候変動に関する政府間パネル(IPCC)の第6次評価報告書をまとめた第1作業部会(自然科学的根拠を対象とする部会)によると、現段階で何をしようと今世紀半ばまで地球の気温は上昇し続ける。ただし、温暖化がどの程度まで進むかは、いかに迅速に二酸化炭素排出量を削減し、大気中の二酸化炭素を除去する方法を急速に拡大できるかにかかっている。
気候学者によると、二酸化炭素除去が必要になる理由は、除去方法や浄化方法がまだ分からない飛行機や肥料などの排出源とのバランスをとるためであり、また、危険な限界温度を超えてしまった地球を元に戻すためだという。
国連の報告書によると、温室効果ガスは、ほぼすべての気候シナリオにおいて、今後20年以内に地球の気温は産業革命前と比べて少なくとも1.5℃上昇させ、深刻な熱波や洪水、干ばつを招く可能性がある。しかし、二酸化炭素は数百年から数千年にわたって大気中に残るため、気候を安全なレベルに戻すには、基本的に二酸化炭素を除去するしか方法がない(最後の選択肢は、地球工学で研究されているような、熱を宇宙に反射させる方法かもしれないが、これに関してはあらゆる論争や懸念が生じている)。
気温上昇を1.5℃に抑えるという最も楽観的なシナリオの作成に使用されたモデルでは、今世紀半ばまでに年間約50億トン、2100年までに170億トンの二酸化炭素を除去する方法が考案させると仮定している(この数字は、報告書の執筆協力者であるブレイクスルー研究所(Breakthrough Institute)の気候学者、ジーク・ハウスファーザー気候エネルギー部長による以前発表したデータの分析に基づいている)。
そのためには、2020年に米国全体が排出したのと同量の二酸化炭素を、毎年、大気中から除去できるテクノロジーや手法を今後わずか30年の間に確立し、拡大する必要がある。
このモデルでは、ほぼすべての二酸化炭素除去を「回収・貯留付きバイオマス発電 (BECCS)」と呼ばれるプロセスを使う。BECCSは、二酸化炭素を吸収する作物を栽培し、収穫したバイオマスから熱や電気、燃料を生産し、その過程で発生する排出物を回収・貯留する。しかし、モデルではBECCSを利用すれば数十億トンもの二酸化炭素を除去できると見込まれているにもかかわらず、実際には小規模なプロジェクトしか実施されていない。
技術的なアプローチは他にも、二酸化炭素を吸収する装置や、鉱物や海が二酸化炭素を吸収・蓄積する自然作用を促進するといったさまざまな方法があるが、どれも未成熟だ。また、森林や土壌などの自然システムを利用して二酸化炭素を除去する場合、それを確実に測定するシステムや推進するインセンティブを開発することは極めて難しい。
9日に発表されたIPCCの評価では、他にも多数の制約や困難が指摘されている。
まず、二酸化炭素の除去によって大気中の温室効果ガスの量を削減できるが、その効果はいくらか相殺される可能性があると指摘している。モデル研究によると、ある一定期間、大気中の化学的な変化に反応して海や陸から二酸化炭素がより多く放出され、その効果が薄れることが分かっている。
次に、二酸化炭素の除去で気温の上昇や海洋酸性化を徐々に緩和できる可能性はあるが、すべての気候変動の影響を魔法のように無くせるわけではない。特に沿岸都市の建設ができるレベルにまで海を元通りにするには、何世紀もかかるだろうと報告書は強調している。世界が二酸化炭素の排出量を削減し、除去の規模を拡大するまで世界がどれほど温暖化するかによっては、氷床やサンゴ礁、熱帯雨林、および特定の種にいたるまで、ほぼ不可逆的な被害を受ける可能性がある。
報告書の第5章では、大規模な二酸化炭素除去に関するほぼすべての可能性のあるアプローチについても、その他のさまざまなトレードオフや未知の問題があると説明している。
二酸化炭素を吸収する装置には、大量のエネルギーと材料が必要だ。二酸化炭素を吸収するために、さらに多くの木を植え、燃料のための作物を栽培することになるが、増大する世界人口に必要な食料生産と競うことになる。
気候変動自体による気温の上昇に伴って干ばつや森林火災、害虫被害などのリスクが高まると、森林が二酸化炭素を吸収・貯留する能力が弱まる。また、さまざまな海洋ベースのアプローチにより、海洋生態系に与える負の影響については、科学的な不確実性が非常に高いとされる。
朗報もある。大気中の二酸化炭素を除去する方法はさまざまであり、安価で優れた方法の開発に取り組む研究グループや企業が増えている。しかし、今回の報告書で明らかになったように、非常に大きな危機的な状況にもかかわらず、人類は大きく出遅れているのだ。
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- ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
- MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。