星1レビューで飲食店を攻撃、反ワクチン派が接種証明妨害か
ワクチン接種の増加で日常を取り戻そうとしている飲食店をネット上の荒らし行為が襲っている。店の入口でワクチン接種証明の提示を求めるニューヨークの店へは、遠く離れた欧州からも「星1」のレビューが書き込まれているという。 by Tanya Basu2021.06.15
初めて夏の暑さを感じる週末、リチャード・ナップは、マンハッタンのソーホー地区にひっそりとたたずむバー「マザーズ・ルイン(Mother’s Ruin)」の入口に看板を掲げた。看板には2つの矢印が書かれている。1本はワクチン接種済の人を店内へ、もう1本は未接種の人を店外へ導いている。
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インスタグラムに投稿されたこの看板写真は、レディット(Reddit)上の反ワクチン派の欧州人の間で急速に拡散した。「グーグルのポータルを通じて、嫌がらせメールが届き始めたんだ」とナップはいい、メールの数は「数十通」はくだらないという。「ナチス党員とか共産主義者とか書かれて。メールを送ってきた連中はうちのバーが火事で焼き落ちればいいと思ってるんだ。ネーム・アンド・シェイム(名指し非難)キャンペーンだよ」。それはメールだけでは終わらなかった。すぐに、ナップのバーは、遠く離れた欧州のアカウントによって、イェルプ(Yelp)やグーグルのレビューで星1つの評価を多数つけられるようになった。
クチコミサイトにスパムを送信する行為は、今に始まったことではない。パンデミックを通じて、安全のためにマスクを着用するよう強制したバーやレストランを攻撃する戦術としても展開されてきた。パンデミックの制限が解除されるにつれ、マザーズ・ルインのような店は、ニューヨーク州が支援するニューヨーク・エクセルシオール・パス(New York’s Excelsior Pass)アプリ、ワクチン・パスポート、あるいは単にワクチン・カードを店の入口で見せることでワクチン接種の証明を求め、安全性を確保しようと努めてきた。こうした行動は、偽レビューの急増の第二波を引き起こした。
星1つをつける偽レビューは、店に著しい損害を与える可能性がある。レビューの初期値では、新しい書き込みから古い書き込みへと時系列で表示される。つまり、スパム攻撃による偽のレビューが一番上に表示されてしまい、組織的な攻撃を受けた店は影響を強く受けてしまう。
一部のクチコミサイト運営企業は、評価者にメールで連絡をとり、登録されている情報と照合して評価者が実際に店を訪れたのかを確認し、自社サイトで偽レビュー問題が発生するのを回避している。しかし、イェルプやグーグルのような業界をリードするプラットフォームでは、どこに住んでいようが誰でも店を評価し、批評を書ける。
コロラド州デンバーにある「バー・マックス(Bar Max)」を経営するマーシャル・スミスは今年4月、おそらく米国初となる、常連客が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のワクチン接種済みであることの証明を求める方針を打ち出した。スミスは、店の入口で来店客にワクチン接種カードを見せてもらうのは、大したことではないと考えていた。「政治的な意図はなかったけど、ちょっと考えが甘かったかな」と彼は話す。
数日のうちに、バーのグーグル・レビューには星1つが並び、5段階評価で4.6だった平均評価は4に下がってしまった。
「パンデミックの前、うちの店はデンバーの創作カクテル・バーのレビューでトップ10に入ってたんだ」とスミスは言う。「あまり重要に聞こえないかもしれないけど、検索結果の最初のページから脱落するのは大問題なんだ。まとめ記事で『バー・マックスはトップ10から落ちました』と書かれるんだから。多くの人がレビューを見ているから、あまり広告は出さなかったし、6年かけて積み上げた良い評判が、わずか数カ月で水の泡ってことさ」。
これらのレビューは、店の歴史として永久に残るわけではない。イェルプはスパムを一掃しているが、「『スパム検出の仕組み』については誰にも語っていません」とイリノイ大学シカゴ校のビン・リウ教授(コンピューター科学)は話す。リウ教授は、イェルプの手法を再現しようと試みた2013年に発表した論文の共同執筆者で、イェルプはスパム発信者を一掃するために、キーワードを使用した可能性が最も高いことを発見した。
イェルプに書かれたバー・マックスのレビューは突然、停止された。イェルプが「異常な活動の警告(unusual activity alerts)」と印を付けたからだ。これは、店側とイェルプの双方が、大量のレビューをフィルタリングし、どれがスパムでどれがスパムでないかを特定するための暫定的な措置だ。イェルプのユーザー運営担当のヌーリー・マリク副社長は、イェルプには異常な量のトラフィックが発生するページを調査する「モデレーター・チーム」がいると話す。「突然の活発な活動が劇的に減少するか、停止した後、対象となった店のページからスパムを削除して、本当にその店を訪れた客が直接体験したものだけを反映するようにします」とマリク副社長は声明の中で述べている。
この措置は、パンデミックの間、イェルプが頻繁に用いなければならない方法だった。イェルプの「信頼と安全の報告書2020年版」によると、2020年の「異常な活動の警告」は、2019年よりも206%も増加したという。「2021年1月以降、新型コロナウイルス感染症のワクチン接種に対する店の姿勢に関連して、15件を超える『異常な活動の警告』を適用しました」とマリク副社長は言う。
これらの事例のほとんどは、5月以降からだ。例えば、シアトルのゲイバー「C.C. アトルズ(C.C. Attles)」は、入口で常連客にワクチン接種の証拠の提示を求めた後、イェルプから異常な活動の警告を受けた。6月初め、シカゴのリバー・ノース地区にある「モーズ・カンティーナ(Moe’s Cantina)」は、ワクチン接種を受けた客とワクチン接種を受けていない客を分けるようにした後、スパム攻撃を受けた。
店に星1つのレビューでスパム攻撃することは、新しい戦術ではない。実際、おそらく最もよく知られている事例は、コロラド州のベーカリー「マスターピース・ケーキショップ(Masterpiece Cakeshop)」だろう。同店は、同性カップルのウェディングケーキを作ることを拒否した件で2018年の最高裁判所での争いに勝利したが、その後、星1つのレビューで繰り返し酷評された。「人々はまだ偽のレビューを書いています。これからもずっと書き続けるでしょう」とリウ教授は話す。
しかし、現在、ネット上のオーディエンスは、クチコミサイトがアルゴリズムを使って問題のあるキーワードを検出して印をつけていることを知っているとリウ教授はつけ加える。そのため、悪意のある行為者は、レストランのサービスが悪いなどといったごく一般的な非難の言葉で、自分たちの不平や不満を直接表現せずに覆い隠して検出から逃れようとする。そうすれば削除対象にならず、低評価は残り続けるからだ。
それはナップが経営するマザーズ・ルインにも当てはまる。イェルプのレビューには「食べ物に髪の毛が入っていた」や、ゴキブリの目撃情報も含まれていた。「本当にばかばかしい、根拠のないたわごとばかり。以前のレビューを見れば、すぐにこれはおかしいと分かるはずだよ」とナップは話す。
リウ教授はまた、イェルプがスパムの検出量を増やすには限界があると話す。自然言語、つまり我々の話し方、読み方、書き方は「コンピューター・システムが検出するには非常に難しい」からだ。
しかし、リウ教授は、どのレビューがスパムで、どれがスパムでないかを判断する責任を人間に負わせることで、問題が解決するとは考えていない。「人間にはできません。正しく判断できる人もいれば、間違える人もいます。私のWebページにも偽レビューは掲載されていますが、どれが本物でどれが偽物なのか区別がつきません」。
グーグルのレビューは、グーグルで店名を検索をしたときに、検索結果の右側に店の説明とともに表示される。このため、間違いなくイェルプより影響力は大きい。にもかかわらず、これまでイェルプについてのみ言及してきた理由は、グーグル・レビューの運営が、率直に言って他社よりも謎めいていて不可解だからだ。
私がインタビューをした店の人々は、イェルプは彼らと協力して偽レビューの特定をしてきたが、グーグルのチームと連絡がとれた人は1人もいない。「グーグルが『この店のページは、何かめちゃくちゃになっちゃってますね』なんて言ってくることは一度もない」とナップは話す。「偽レビューのIPアドレスは、海外からなのに。こんなことを野放しにしておくと、クチコミサイトは本当に台無しになってしまうはず」。
グーグルに何度もコメントを求めたが、返答は得られていない。しかし、問い合わせをした数時間以内に、ナップは問題のあるレビューのいくつかがグーグルから削除されたと言う。スミスがフラグを立てた複数のレビューは、「グーグルの方針違反のカテゴリーに入らない」から削除するには値しないという自動応答を除き、グーグルからの回答はまだ得られていない、とスミスは話す。
偽レビューはなくならず、今後もずっと問題は続くだろう。そして、マザーズ・ルインのレビューを食い散らかした欧州の反ワクチン派などのオンライン・コミュニティが、星の評価をクリックするだけで、遠く離れた人々の生活を破壊できるという事実に変わりはない。
こうした星の評価は、スミスのようなオーナー店主を悩ませる。「グーグルの店紹介欄で、星1つのレビューを投稿する人がまだいるんだ。異常値が平均を引き下げるのが数学でしょ? こういうことをする人には、非常に効果的な攻撃手段なんだよ」。
ナップも同様にもどかしく感じ、無力感を覚えている。「サービス業を襲った、最も精神的な打撃を受けたこの経験を、乗り越えようとしているだけなのに」と彼は言う。「特定のコミュニティーから攻撃を受けているのに、それに対抗するための現実的な手段が何もないというのは、いらだたしいにもほどがあるよ」。
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- ターニャ・バス [Tanya Basu]米国版 「人間とテクノロジー」担当上級記者
- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。