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ユニバーサルから保証所得へ
シリコンバレーが熱狂した
ベーシック・インカムに異変
Ms Tech | Getty
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Covid killed UBI; Long live guaranteed income

ユニバーサルから保証所得へ
シリコンバレーが熱狂した
ベーシック・インカムに異変

自動化やAIにより雇用喪失を招いたとして批判されているテック業界の億万長者たちが主張する「ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)」の概念は、新型コロナのパンデミックを経て、経済的および人種的な不平等を是正するための「保証所得」へと重点がシフトしてきている。 by Eileen Guo2021.06.01

数年前、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)の概念を初めて耳にした時、エリザベス・ソフトキーは疑問を感じた。当時、公立学校の教師だったソフトキーは、同僚の昇給など、ささやかな経済的利益でさえ人々の支持を得ることがどれほど困難であるかを知っていた。「人々にお金を配るなんて理解できませんでした」とソフトキーは言う。「無条件にお金を支給するなんて」。

しかし、そう言っていたのは、ソフトキーが結腸がんと診断され、身体に負担がかかる化学療法のために働けなくなり、家賃が滞ってカリフォルニア州レッドウッドシティの自宅から追い出されるまで、だった。地域のホームレスシェルターに身を寄せていたソフトキーは、ホームレス状態の15人に6カ月間、毎月500ドルを提供するプログラムに参加できるという電話を受けたのだ。

2020年12月、ソフトキーは保証所得を提供するパイロット・プログラムに招待され、無条件に直接現金給付を受けた。ソフトキーにとってそれは命綱であった。「久しぶりに、ほっと息をつき、貯蓄を始め、未来の自分の姿を想像できるように感じました」。

「無条件でお金を支給する」という考えは、多くの著名なシリコンバレー起業家のお気に入りの主張のひとつになって以来、ニュースで時折取り上げられている。こうした起業家には、ツイッター共同創業者のジャック・ドーシーCEO(最高経営責任者)をはじめ、フェイスブックの共同創業者であるマーク・ザッカーバーグCEOとクリス・ヒューズ(現在はフェイスブックとは別の活動をしている)、シンギュラリティ大学のピーター・ディアマンディスなどが挙げられる。彼ら自身の企業が生み出したテクノロジーである自動化や人工知能(AI)によって引き起こされた失業や社会的葛藤に対する解決策として、ユニバーサル・ベーシック・インカムを提唱していたのだ。

しかし、ユニバーサル・ベーシック・インカムについては、今日でもテック業界の著名人が関わっているものの、特にプロジェクトの資金提供に関しては、目的や内容が変わってきている。仕事の自動化の影響を緩和することを目指すユニバーサル・ベーシック・インカムから、経済的および人種的な不平等を是正するための「保証所得」へと重点がシフトしてきたのだ。

保証所得の概念はどのように生まれたのか

州が直接、所得を配給するという考えは、16世紀に哲学者によって最初に提案され、多方面であらゆる社会問題を解決するための妙薬と考えられてきた。最低限所得保障はコミュニティを貧困から救う可能性があると進歩主義者は論じている。一方で保守派やリバタリアン(自由至上主義)は、ユニバーサル・ベーシック・インカム(UBI)を、既存の社会福祉制度に対する費用効果の高い代替案とみなしている。

米国では、ブラックパンサー党やマーチン・ルーサー・キング・ジュニアなどが、経済的正義の問題として保証所得を支持した。リバタリアン経済学者のミルトン・フリードマンは、負の所得税の一形態として保証所得を提唱した。リチャード・ニクソン元大統領でさえ、家族単位で無条件に直接現金を支給することを提案した。千人もの経済学者に公開書簡で促されて作成されたニクソン元大統領の計画は、下院を2度通過したが、上院で否決された。

テック業界におけるユニバーサル・ベーシック・インカムの支持者は、リバタリアンのモデルによって行動を促される傾向がある。リバタリアンのモデルは、未来に関する自分たちの中核となる信念や、変化を巡る自分たちの主な理論と一致するからだ。それ自体は技術的な解決策ではないが、一種の解決策にはなる。公平な社会福祉政策を生み出すことによる複雑性を回避するための究極の策である。

ユニバーサル・ベーシック・インカムの概念がシリコンバレーに根付き始めた時、多くの支持者はケーススタディを求めて国外に目を向けた。2017年、フィンランドは2000人の失業者に毎月支給する2カ年計画を始めた。カナダのオンタリオ州政府は、3カ年プログラム(保守党が政権を握った時に短縮された)を発表した。イランやスペイン、オランダ、ドイツでもパイロットプログラムが実施されていた。

とはいえ、国外だけではなく、米国にも前例が存在した。ニクソン元大統領が独自の保証所得計画を検討していたとき、デンバーやシアトルなどの都市で実験が実施されたのだ。1982年以降、アラスカ永久基金は州の石油収入の一部を全ての成人居住者に分配している(毎年、平均1100ドル)。いくつかのアメリカ先住民の部族は、カジノからの収益の一部を全ての登録メンバーに支払っている。こうした米国のシステムは、雇用率にほとんど影響を与えていない。反対派の共通の懸念のひとつである、ユニバーサル・ベーシック・インカムを導入すると人々が仕事を辞めるという事態には至らず、教育やメンタルヘルス、犯罪の面で良い結果につながっている。

それでも、ユニバーサル・ベーシック・インカムには、何か本質的に非米国的なものが感じられる。だからこそ、ラジオで議論されているのを耳にしたとき、ソフトキーは反発したのだ。「私が善良な米国人であるからです」と彼女は説明する(善良なアメリカ人は施しを受けないという意味)。

アンドリュー・ヤン元大統領候補が2020年の民主党候補指名争いの目玉としてユニバーサル・ベーシック・インカムを提案した時、「米国人らしさ」との兼ね合いで受け入れがたいものと認識される可能性があることを理解していた。そのため、全米国民に毎月1000ドルの小切手を送付するという計画に付ける名前が、ポジティブに受け止められるかどうかの鍵を握っていると考えた。複数の選択肢を検討して落ち着いた名前が、「自由の配当」という名前である。

結局のところ、資本主義はアメリカンドリームの代名詞になっており、配当ほど資本主義的なものはないだろう。そして、自由が米国的であるのは自明のことである。

公平な機会

ヤンが大統領選の民主党候補者討論会に登壇する時までには、米国の都市で実施された多くのベーシック・インカムのパイロット・プロジェクトからデータが得られ始めていた。

ひとつは、ミシシッピ州ジャクソンで低所得の黒人の母親を対象とした保証所得パイロットプロジェクト、「マグノリア・マザーズ・トラスト(MMT:Magnolia Mother’s Trust)」であった。2018年12月、最初の20人の母親が初めて1000ドルを手にし、1年間、毎月同額の支給を受けることになった(彼女らはまた、子どものための普通預金口座も与えられた)。多くの母親にとって、1年間に支給された1万2000ドルは、年収を2倍にする効果があった。このプログラムはそれ以降、それぞれ110人の女性を対象として2回実施された。

黒人の母親に焦点を当てたのは意図的なものだと、MMTを運営する非営利団体「スプリングボード・ツー・オポチュニティ(Springboard to Opportunity、機会への踏み台の意)」のアイーシャ・ニャンドロは言う。「米国の貧困に目を向け、最も被害を受けているのは誰かを考えると、それは黒人女性なのです」。また、子どものための普通預金を開始することを選択したのは、米国における貧困は世代間連鎖が多いという事実に対処するためである。

「社会から取り残された人々を確実にうまく支援するにはどうすればよいでしょうか」とニャンドロは尋ねる。

分析は完了していないが、初期の結果は有望である。対照群と比較して、MMTのパイロットプログラムの参加者は緊急時の借金をする割合が40パーセント低く、きちんと医者にかかる可能性が27パーセント高かった。平均して、食料や生活費に毎月150ドル充てられていた。

とはいえ、ニャンドロにとって、これらの測定可能な「資本主義的成果」は …

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