KADOKAWA Technology Review
×
主張:死者連日3000人越え「インドの危機」脱するために必要なこと
Abhishek Chinnappa/Getty Images
倫理/政策 無料会員限定
What India needs to get through its covid crisis

主張:死者連日3000人越え「インドの危機」脱するために必要なこと

新型コロナの第2波に襲われているインドでは、5月中旬までに1日あたりの死者は1万2000人を超え、8月までの死者は合計100万人に迫ると予測されている。新型コロナに対する政治家たちの時期尚早な勝利宣言で対策が緩和されたうえ、大量のワクチンを国内需要に回さずに輸出してきたことが被害を悪化させている。 by Andrea Taylor2021.05.05

記録的な速さで、安全かつ効果的な新型コロナウイルス感染症ワクチンが複数開発されている。にもかかわらず、世界のワクチン製造大国であるインドが現在、このウイルスによって厳しい状況に置かれているのは残酷な皮肉だ。インド政府による公式発表では、1日あたりの新規感染者数は38万人を超え、死者数は1日で3400人に上ると伝えられている。この数字だけでも深刻だが、実際の被害はそれよりもさらに大きいと見られている。インド中の医療システムが新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の第2波の圧力によって追い込まれており、酸素、医療機器、医薬品、病床の深刻な不足によって状況がさらに悪化するおそれがある。

インドの強力なワクチン開発および生産計画は、低~中所得国へのワクチン供給をこれまで支えてきたが、国内ではワクチン接種の大規模な拡大に苦戦している。同感染症のパンデミック発生から1年が経ち、国際的な連携の取り組みがいくつか実施されてきたが、インドで起こっている危機によって際立った不平等の高まりを解消するには至っていない。

なぜこうなってしまったのか。事態のさらなる悪化を防ぐためには今何をすべきなのか。

手遅れだ

危機にあっては、リーダーシップがとりわけ重要となる。昨年9月に新型コロナ感染の第1波がピークを過ぎると、インド中の政治リーダーたちは現状に満足し、時期尚早に勝利宣言をして公衆衛生対策を緩和した。ナレンドラ・モディ首相は今年1月に実施された世界経済フォーラムで、インドは「新型コロナウイルスを効果的に抑え込むことで、人類を大災害から救いました」と述べた。だが、ここ数週間で開かれた選挙集会や大規模な宗教集会といったイベントによって、大規模な感染拡大が引き起こされてしまった。

感染が増加する中で、ワクチン接種は第2波を緩和できるほどのペースでは実施されてこなかった。インドのワクチン接種回数は1億5000万回で、世界で3番目に多い。しかしながら、インドは膨大な人口を抱える国であり、少なくとも1回のワクチン接種を受けたインド国民はわずか9.1%。ワクチン接種が完了した国民に至っては2%に過ぎない。

米国をはじめとする多くの高所得国と異なり、インドは大量の新型コロナウイルス感染症ワクチンを輸出している(パンデミック発生以来、95カ国に対して6600万回分を超えるワクチンを輸出してきた)。現在のインド国内におけるワクチン生産能力は1カ月あたり7000万~8000万回分だ。しかし、世界の最貧国に対してワクチンへの平等なアクセスを提供することを目的とした国際的な取り組みである「コバックス(COVAX)」での契約上の義務を考慮しなかったとしても、これでは7月までに3億人のワクチン接種を完了するというインド政府の目標は達成できない。

当初は他国から羨望の眼差しを向けられていたインドの民間製薬企業だが、ワクチンの研究開発および生産の増強にあたっては、一部の国の政府が実行したような迅速かつ積極的な支援を受けることはできなかった。米国では、2020年5月に始まった「ワープ・スピード作戦(Operation Warp Speed)」によって新型コロナ・ワクチン開発とその先行発注に180億ドルが投入されたが、インド政府はインド製ワクチンを今年1月に入るまで正式購入することはなく、国内製造されたワクチ …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る