ヒト胚研究の重要な倫理指針
「14日ルール」
ついに見直しか
「ヒトの胚は14日以上培養してはならない」。近年のヒト胚研究の多様化と発展に伴い、過去40年に渡って遵守されてきたルールがついに緩和されようとしている。 by Antonio Regalado2021.03.24
2016年、マグダレナ・ゼルニカ=ゴッツ教授は、研究室のシャーレでヒトの胚を誰よりも長期間培養することに成功した。ケンブリッジ大学に属するゼルニカ=ゴッツ教授のチームは、小さな球状の胚を培養器内で特別な液体に浸しながら、来る日も来る日も胚の成長を見守り、それまでのすべての記録を破ったのだ。胚は、子宮に着床するかのごとくシャーレにくっつき、数個の胎盤の細胞が発生する様子まで観察された。
しかし、培養開始から13日目、ゼルニカ=ゴッツ教授は実験を中止した。
ゼルニカ=ゴッツ教授の前に立ちはだかったのは、国際的に認められた倫理上の制限である「14日ルール」だった。科学者たちが自ら定めたこのルールにおいては、研究室での2週間を超えたヒト胚の培養は決して認められないことが合意されている。14日というのは、球状の胚が身体の形成を開始するタイミングであり、頭になる部分が決まったり、細胞がそれぞれ特別な役割を持つ細胞へ分化し始めたりする。
過去40年間にわたり、この自主的な倫理指針は、胚研究において「待った」をかける重要な役割を果たしてきた。世間に対しては、科学者が研究室で胎児を育てることはない意思を明確に表明するものであった。また、研究者にとっては、どのような研究が許されるのかを示す指標でもあった。
しかし現在、主要な学術団体の1つが、この14日ルールを撤廃する構えを見せている。こうした学術団体の動きは、科学界が胚細胞の成長やその成長を観察する方法について目覚ましい発展を遂げているタイミングと重なる。たとえば、研究者は今や幹細胞からも胚に似た構造物を作り出すことができる。さらに、一部の研究者は、そうした人工胚のモデルを、これまでの2週間という期限よりも長い期間観察したいと考えている。
自主規制を撤廃し、通常のヒト胚および人工胚の両方について2週間を超えた培養を認めてしまうと、子宮外でヒトを成長させる研究において、優れてはいるが倫理的な問題をはらんだ実験が次々と実施される可能性がある。
国際幹細胞学会(International Society for Stem Cell Research:ISSCR) が作成した勧告の草稿の内容は、同学会の考えに詳しい数名によると、ヒト胚の長期培養を「禁止の」科学活動のカテゴリーから外し、倫理審査や各国の規定によって認められる部類に入れるというものだという。
ISSCRは4000人の会員を擁する専門家団体であり、影響力もある。ISSCRの広報担当者は、今回の変更に関してコメントを差し控えているが、新たな指針は2021年の春には公表されると述べている。
人工胚
米国での胚研究は政府からの助成を受けておらず、世界各国の関連法も大きく異なるため、ISSCRは、胚研究分野における事実上の監督機関として非常に重要な役割を持っている。大学や科学雑誌は、発表してもよい研究を決める際にISSCRの指針を拠り所としている。
規定の枠を超えるような新しい研究が次々と実施されるため、2016年に …
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