KADOKAWA Technology Review
×
AIボットが演じる16歳で「心を開く」訓練、カウンセラー教育に
Ms Tech | Unsplash, Pexels
人工知能(AI) 無料会員限定
An AI is training counselors to deal with teens in crisis

AIボットが演じる16歳で「心を開く」訓練、カウンセラー教育に

LGBTQの若者らに向けたホットライン「トレバー・プロジェクト」は、ボランティアのカウンセラーの教育に、ノースカロライナ州出身の16歳の「ライリー」という架空の人格を備えたAIチャットボットを使用している。ただし、教育の効率を上げることだけが目標ではない。 by Karen Hao2021.03.09

非営利組織のトレバー・プロジェクト(Trevor Project)でボランティアをするカウンセラーは、自殺を考えている可能性のあるLGBTQの若者との最初の会話に向けて準備をしなければならない。そこでまず、カウンセラーたちは練習をする。その手法の1つとして例えば、ちょっと落ち込み、ふさぎ込んでいるノースカロライナ州出身の16歳の「ライリー」という架空の人物と話すというものがある。チームの1人がライリーの役割を演じることで、研修生は事態を深く追求できる。つまり、ライリーが家族にカミングアウトすることを心配していること、最近友達に話したが上手くいかなかったこと、そして今現在でないにせよ、これまでに自殺を考えたことがあるといった事実を把握できるのだ。

ところで現在、「ライリー」は実はトレバー・プロジェクトのスタッフが演じているわけではない。人工知能(AI)が演じているのだ。

AI版ライリーは、カウンセラーとプロジェクトのスタッフとの数千に及ぶ過去の役割練習の対話記録で訓練されている。そして、生身の人間が演じていたライリーと同様に、研修生がLGBTQの若者を助けるための最善の方法について学んだことを試せる状況を提示し、心を開くようにうまく誘導される必要がある。

カウンセラーは、ライリーにカミングアウトするように強要する必要はない。ライリーが持つ心情の正当性を確認し、必要であれば安全を確保するためのプランを立てる手助けすることが目標だ。

危機に対応するホットラインとチャットサービスの存在は、当事者に基本的な保証を約束する。手を差しのべ、助けになる生身の人とのつながりを提供する。しかし、そのニーズが、最も信頼あるサービスであるトレバー・プロジェクトの処理能力さえ上回ってしまうことがある。同プロジェクトは、米国で毎年180万人ものLGBTQの若者が真剣に自殺を検討していると考えている。チャットベースの同プロジェクトのサービスに在籍する600人というカウンセラーの人数では、そのニーズに対応しきれないのだ。そこでトレバー・プロジェクトは、他の多くのメンタルヘルス機関同様に、需要に対応するためにAIを活用したツールに目を向けた。これは大いに理に適った進歩であるが、傷つきやすい人々の生命が危機に際している状況で、現在のAIテクノロジーがどの程度のことができるのかという疑問も同時に提起している。

リスクを冒して、評価をする

トレバー・プロジェクトは、AIに対する期待と疑問のバランスを理解していると考えており、ライリーがしていないことについて強調する。

「我々は、カウンセラーの代わりとなったり、危機に瀕する可能性のある人間と直接対話をしたりするAIシステムの開発に着手したことはありませんし、そのような予定もありません」と話すのは、トレバー・プロジェクトのAIと工学部門の責任者であるダン・フィッシャーだ。人と人とのつながりはすべてのメンタルヘルス・サービスにとって重要だが、同プロジェクトに携わる人々にとって特に大切なのかもしれない。トレバー・プロジェクトが2019年に実施した独自の調査によると、人生で少なくとも一度は大人の助けを受け入れたLGBTQの若者は、前年に自殺しようとしたことがあると答えた割合が40%少なかった。

トレバー・プロジェクトのAIを活用した訓練用役割練習は「危機 …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る