新型コロナワクチン、
南ア型変異株にも有効か?
日本でも接種開始が近づいている新型コロナワクチンは、強力な変異株にも効果を示すのだろうか? 南アフリカで実施された大規模な臨床試験の結果がヒントになりそうだ。 by Antonio Regalado2021.02.05
ボクシング・デーの2020年12月26日、クリケットの試合会場にいたサリム・アブドル・カリム教授は、会場でEメールをチェックするという間違いを犯してしまった。Eメールで受け取った新しいレポートは良い知らせではなかった。南アフリカで発見された新型コロナウイルスの強力な変異株は、ヒトの細胞により強固に、より簡単に結合することが可能なようだった。
疫学者であり、南アフリカ政府の新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の首席顧問を務めていたカリム教授は、レポートが意味することを悟った。その内容は、感染者数の増加によってすべての州を危機的状況に陥れている、南アフリカにおける新型コロナウイルス感染症の劇的な変化を説明できるものであった。
「感染者数はただただ増加の一途を辿り、エベレストに匹敵するほどになりました」。カリム教授は言う。
南アフリカにおける感染者数の増加は、高度に変異した新型コロナウイルスの新たな形態に関係している。そしてこの変異株は、世界全体で見られるより広範な変異パターンの一部に過ぎない。2020年末から1カ月もの間、アフリカやブラジル、英国で発見された新たな変異株の理解に全力で取り組んできて疲労困憊な研究者たちは、査読前論文用サーバー、Webサイト、公式レポートに、一連の憂慮すべき内容を報告した。報告では、新型コロナウイルスが姿形を変えて、ロックダウンを軽くあしらい、抗体を回避して、第一波ですでに苦しんでいたロンドンやマナウスといった都市を奪い返そうとしていると説明されていた。
実際、数週間のうちに新型コロナウイルスに対する一部の科学者の認識は、ワクチン技術によって簡単に打ち勝つことができる、静的で変化の遅いウイルスというものから、パンデミック(世界的流行)にとんでもない形で決定的な終止符を打つ、姿を自在に変えるテロリストのようなものへと変わった。
ワクチンは依然として有効なのか?
世間の注目の大半は、新型コロナウイルスのいわゆる英国型の変異株へと向けられている。英国型の変異株は、従来のものより感染拡大のスピードが速く、米国をはじめとする数十カ国で感染例が見られている。1月22日の金曜日、英国のボリス・ジョンソン首相は、英国型の変異株は致死率も高く、感染者が30%ほど多く死亡する可能性があることを政府の諮問委員会から警告されたと語った。
感染拡大のスピードが速く、致死率がより高い英国型の新型コロナウイルスは、それでもマスクの使用とソーシャル・ディスタンスの確保で対処することが可能だ。一方、「501Y.V2」と呼ばれる、2020年12月22日に遺伝子調査によって初めて類型化された南アフリカの変異株は、感染拡大のスピードが速いだけでなく、驚くべきことに、過去に新型コロナウイルス感染症に感染した人の血液の抗体を回避すると見られている。理論的には、世界的な感染拡大を抑制するとして社会の希望の的となっているワクチンの効果が弱まる恐れがある。
1月21日、バイデン新政権下における初めての記者会見で、米国立アレルギー・感染症研究所のアンソニー・ファウチ所長は、このような「免疫回避」の研究報告があることから、南アフリカ型は英国型よりも「格段に憂慮すべき」存在になっていると語った。「皆さんが明確に興味を抱いている本当の疑問は、ワクチンへの影響はどうなのかということでしょう」とファウチ所長は述べた。
ファウチ所長が言及しなかったのは、まさに危険な変異株が広範に拡大していた2020年9月から12月の間に実施された、南アフリカ人数千人を対象とした大規模なワクチン臨床試験のおかげで、早ければ来週にもその疑問に対する実社会における答えを得ることができるということである(日本版注:1月29日、有効性が下がるとの結果が発表された)。
ジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)が開発したそのワクチンは、1回の接種で済み、保管も容易である。米国が2020年12月に承認した、モデルナ(Moderna)やファイザー(Pfizer)の超低温保管と2回の投与を要するメッセンジャーRNA(mRNA)ワクチンよりも、人への接種が容易になるため、広く期待されている。
そして、図らずもそのジョンソン・エンド・ジョンソンの臨床試験によって、ワクチンが南アフリカの変異株501Y.V2に対する予防効果を持つか否かという大きな疑問の答えが得られる可能性がある。その …
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