かつてSF作品で描かれた未来都市の乗り物といえば、決まって「空飛ぶクルマ」だった。2020年代に入って、その夢見た未来がようやく訪れようとしている。
2018年8月、日本の経済産業省と国土交通省は、「空飛ぶクルマ」の社会実装を実現し、新たな産業を育成する官民協議会を立ち上げた。大手航空会社や航空機メーカーの幹部と顔を並べた福澤知浩は、空飛ぶクルマの開発を手がけるスタートアップ企業の若き経営者だ。
福澤は東京大学卒業後、トヨタ自動車に勤務する傍ら、有志団体で空飛ぶクルマの開発をスタート。2018年7月にスカイドライブ(SkyDrive)を創業し、2020年8月に日本の民間企業としては初となる4分間の有人飛行を成功させた。空飛ぶクルマの開発では中国のイーハン(Ehang)やドイツのボロコプター(Volocopter)などが先行しているが、福澤率いる(スカイドライブ)は、前身となる有志団体を含めて3年弱で有人飛行に漕ぎ着け、これらの動きを猛追している。
福澤が実用化を目指している空飛ぶクルマは、eVTOL(電動垂直離着陸)タイプの2人乗り。騒音や操縦難易度、機体価格が、航空機よりも自動車に近い、日常利用が可能な乗り物を目指しており、現在のクルマのように身近な移動手段として未来の生活に定着させていくという意志を込めて、「空飛ぶクルマ」と呼んでいる。実際、開発中のスカイドライブの機体は、駐車場2台分に収まる小さなものだ。
福澤は優秀な技術者を集め、機体開発を指揮する一方で、国のルール作りやインフラの整備にも参加し、日本における空飛ぶクルマの社会実装を主導する立場にある。2020年7月、日本政府は2023年を目標に地方で人員輸送サービスを実現し、その後都市へと利用を拡大していく方針を決めた。スカイドライブは2023年度に湾岸部を飛行するエアタクシー・サービス事業を開始し、2028年度には機体の量産化を目指す。
都市部における移動時間の短縮や救急患者輸送の迅速化、遊覧飛行による新たな観光資源の創出など、空飛ぶクルマによってより快適で豊かな生活の実現を標榜する一方で、もう1つ、福澤が思い描くのは、日本の「ものづくり」の復興だ。トヨタ出身であり、中小の製造業との付き合いも深い福澤は、かつて日本の自動車産業が世界を席巻したように、空飛ぶクルマが停滞する日本の製造業の起爆剤になると考えている。「日本発のハードウエア・スタートアップを成功させ、日本のものづくり産業を活性化したい」。
(元田光一)
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