KADOKAWA Technology Review
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Two Infants Treated with Universal Immune Cells Have Their Cancer Vanish

汎用免疫細胞で白血病幼児の治療に成功か?

医療の最前線で、遺伝子操作された他人のT細胞によって、白血病の子どもが治療された。 by Antonio Regalado2017.01.26

グレート・オーモンド・ストリート病院(ロンドン)は、ドナーから提供された免疫細胞(遺伝子を操作して作られた)でがんを治療する世界初の実験で、2人の幼児の白血病が治癒した、と発表した。

この実験により、高額でない患者の静脈にすぐに注射できる汎用免疫細胞(Universal Immune Cells)を供給することで、細胞療法を製品化する可能性が出てきた。

他人の細胞の遺伝子を改変する汎用細胞の製品化により、ジュノ・セラピューティクスやノバルティス等、患者自身の血液細胞を収集し、遺伝子操作し、再注入する治療法に何千万ドルもの資金を投じてきた企業は、戦略の見直しを迫られる。

どちらの手法も、T細胞(免疫システムの飢えた捕食細胞)を遺伝子操作し、白血病細胞を攻撃させるのは同じだ。

サイエンス・トランスレーショナル・メディシン誌1月25日号で発表された症例の説明によると、生後11カ月と16カ月のイギリス人幼児は白血病を患っており、従前の治療は失敗だった。試験を率いた遺伝子療法の専門家ワシーム・カシム医師によれば、ふたりとも治療後は寛解状態にあるいう。

この症例はイギリスでメディアの注目を浴びたが、治療では標準的な抗がん剤も投与されたため、細胞療法が実際に子どもを治癒したと証明できていない、という研究者もいる。フィラデルフィア小児病院のステファン・グラプがん免疫療法科長(ノバルティスと共同研究中)は「効能の兆候はありますが、証拠はありません。効果があるなら素晴らしいですが、証明されたわけではありません」という。

グレート・オーモンド・ストリート病院の治療法に関する権利はバイオテクノロジー企業セレクティスに売却され、今後は製薬会社のセルヴィエとファイザーが開発する。

遺伝子を改変したT細胞による治療法「CAR-T」はまだ新しく、市販されていない。しかしCAR-Tは、血液がんには素晴らしい効果があった。ノバルティスとジュノによる研究では、遺伝子改変された自身の血液細胞の再注入を受けた患者の約半数が完全に治癒した。

しかし、患者ごとにカスタマイズされた治療薬を市販するには、従来はなかった流通面の難題がある。ノバルティスはニュージャージー州に製造センターを整備し、11カ国の25病院から患者の細胞を搬入し、すぐに送り返す体制だ、とグラプ医師はいう。ノバルティスは、子ども向けのT細胞療法を販売するため、米国で承認を得る意向だ。

免疫療法の将来に賭けてばく大な資金が集まっている。しかし多くの新規参入者(バイオテクノロジーの大企業レジェネロンカイト・セラピューティクスフェイト・セラピューティクスセル・メディカ等)が取り組んでいるのは個別化ではなく製品化だ。

汎用細胞の供給専門企業セレクティスのジュリアン・スミス部長(CAR-T開発部門)は「患者から細胞を抽出して製造する手法に対し、汎用細胞を製品化すれば、その場で治療できます」という。

汎用細胞を製品化すれば、ドナーから血液を収集して「数百回分」の投与量を製造して冷凍保存しておける、とスミス部長はいう。「一回分の投与量の製造コストは約4000ドル」(スミス部長)であるのに対して、患者の細胞を改変して再注入するためのコストは約5万ドルだ。

ただし、どちらの治療法でも、医療保険の支出額は50万ドル以上になる見込みである。

ジュノ・セラピューティクス(個人向け治療に数百万ドルの資金を投入した)の創業者であるロバート・ネルソン(ベンチャー・キャピタリスト)は、汎用細胞による代替治療法の開発企業の存在は気にならない、という。「そうした企業が将来できることを、弊社は現在しているのです」と2016年のインタビューで答えたネルソンは「ふたつの治療法の効果が同じだとしても、いや実際には違うけれど、もしそうだとしても、患者が選ぶのは他人の細胞じゃない。自分の細胞だ。これは間違いない」と述べた。

さて、グレート・オーモンド・ストリート病院の治療法は、患者に注入された細胞として、史上最も多く改変された遺伝子という点でも注目すべきだ。この治療法は全部で4カ所の遺伝子が改変されており、そのうちふたつは「TALEN」という遺伝子編集の手法で導入された。ひとつの遺伝子組み換えでは、ドナーの細胞から他人の体を攻撃する性質を取り除き、もうひとつの組み換えでは、がん細胞を攻撃する指令を出すようにされた。

米国と中国の科学者は、がん等の疾患の治療を改善するために、遺伝子編集の応用を競っている

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アントニオ・レガラード [Antonio Regalado]米国版 生物医学担当上級編集者
MITテクノロジーレビューの生物医学担当上級編集者。テクノロジーが医学と生物学の研究をどう変化させるのか、追いかけている。2011年7月にMIT テクノロジーレビューに参画する以前は、ブラジル・サンパウロを拠点に、科学やテクノロジー、ラテンアメリカ政治について、サイエンス(Science)誌などで執筆。2000年から2009年にかけては、ウォール・ストリート・ジャーナル紙で科学記者を務め、後半は海外特派員を務めた。
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