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日本企業はSDGsにどう取り組むべきか
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A Guide to Implementing the SDGs for Japanese Companies

日本企業はSDGsにどう取り組むべきか

SDGsを社会に対する義務と捉えて「対策」するのか。あるいはビジネスを抜本的にサステナブルなものに変革する機会と捉えて「対応」していくのか。企業経営者は今、決断を迫られている。グローバル企業の取り組みを熟知し、戦略コンサルティングの最前線に立つモニターデロイトの藤井剛ジャパンリーダーに、世界の潮流を踏まえた日本企業の取り組み方について、寄稿いただいた。 by Takeshi Fujii2020.12.23

2015年に国連で採択されたSDGsは、国内経済界には2018年後半頃から急速に浸透した。本稿を執筆している2020年11月時点で、もはやSDGsとは何かの基本的な説明をする必要はないだろう。一方で、色とりどりのアイコンを貼り付けた中期経営計画を発表する日本企業や、SDGsの丸バッジを付けて会見に臨む経営者の中で、いかほどが「『企業がSDGsにコミットすること』が持つ意味はどのようなことか」という問いに本質的に答えられるだろうか。

SDGs Issue
この記事はマガジン「SDGs Issue」に収録されています。 マガジンの紹介

企業にとってSDGsとは何か

一般的に企業にとってSDGsの捉え方は、まず「守り」と「攻め」の2つに大別できる。「守り」の視点から見えるSDGsは、今後強化が予想される法令・規制や、ESG(環境・社会・ガバナンス)対応でチェックすべき社会課題領域リストである。ここでのSDGsは「外部規範」としての顔を持つ。一方「攻め」の視点に映るSDGsは、自社の持つ技術や資産を活用し得る社会課題を考案する際の、発想のヒントが埋め込まれた「宝の山」である。この文脈でよく引き合いに出されるのが、世界経済フォーラム「ビジネスと持続可能な開発委員会」が打ち出した「SDGs達成で年間12兆ドルの事業機会開拓が可能」という試算である。ここでのSDGsは「外部機会」として認識されている。

見落としてはならないのは3つ目の捉え方である。それはSDGsを長期経営の「土台」に位置づける視点である(図1)。

前述の「ビジネスと持続可能な開発委員会」は、12兆ドルの試算の前提として、次のような警告を発している。

この警告は、グローバル資本主義経済の拡大と企業の短期利益至上主義が、さまざまな社会課題を深刻化させ、その結果ブーメランのように、自然災害の増加や社会からの批判・炎上を招き、企業経営の持続可能性を阻害していることに気づくべきだと訴えている。すなわちSDGsを「外部規範」や「外部機会」など「外」のものとする見方そのものを戒め、企業が長期的に生存するという「内」なる動機と捉えなければならないことを示しているのだ。

さらに言えばSDGsは、これを企業経営の「土台」として、事業ポートフォリオやビジネスモデル、サプライチェーンを、抜本的にサステナブル(持続可能)なものに変革することで、自社利益の成長と社会価値創造をトレード“オン”の関係にするべきだと、経営者に問いかけているのだ。「SDGsへのコミット」は、換言すれば、「自社の事業が成長すればするほど、世界が良くなる(地球や社会から課題が減っていく)」ような事業構造に、抜本的に転換することへの誓いを意味すると言える。

ユニリーバやデュポンなどのグローバル先進企業は、このようなサステナビリティの底流を流れる「問い」にいち早く気づき、過去15年ほどかけて「土台」の変革にすでに取り組んできている。彼らは、自社の経営改革を進めるだけでなく、社会価値創出が自社の競争優位や企業価値増大につながるための世論・ルール作りも積極的に進めてきた。実はその一環として、国連のSDGs策定プロセスにも積極的に関与していたのだ。これら先進企業にとってSDGsとは、「外から降って湧いた新しいアジェンダ」ではない。自社が戦略的に推し進める経営変革に対する社会的な後押しを得んがための、関連ステークホルダーとの共有ビジョンだ。

日本企業もこのサステナビリティ底流を理解した上で、SDGsを「土台」と位置づけ、経営改革を急ぐ必要がある。

COVID-19がSDGsへの取り組みを加速

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)感染拡大への各国政府の対応による生産活動への著しい制約を前に、多くの企業が足元の感染予防やリモートワークの導入などの対応に追われたことから、SDGsへの取り組みは岐路に立つ(優先順位が下がる)と見る向きもあった。しかしながら実態は、多くの企業で、気候変動をはじめとするSDGsやサステナビリティへの取り組みが逆に加速したようだ。

その要因は第一に、コロナ禍が「SDGsが達成されない2030年の世界」を世界中の人々に垣間見せたからにほかならない。SDGsより以前に、世界はHIV / AIDSを始めとした深刻なパンデミックに直面した経験を持つことから、SDGsはパンデミックの予防をもともと掲げていた。それにもかかわらず、パンデミック対策に向けた予算削減を続けてきた国ほど、医療崩壊など甚大な影響が出たことで、SDGsの重要性が再確認される引き金となった。

第二に、近年新たに発生した感染症の多くが「人獣共通感染症(zoonosis、ズーノーシス)」であり、ズーノーシス頻発の背景にあるとされるのが、森林伐採、資源採掘、農地開墾、沿岸開発などの過度な経済活動に伴う野生動物の生息域の移動と人獣接触機会の増加である、という考え方が広く知られるようになったことも挙げられる。これはPlanetary Health(地球の健康)という新たな学際研究の成果である。地球資源利用のあり方がパンデミックを引き起こすドライバーであるという意味においては、地球環境問題対策はコロナ禍を経て、さらに加速していくことが必定だ。

第三に、国際社会や資本市場が“Build B ackBetter”での経済復興と、サステナビリティを中心に据えた経済システムへの転換を強く求めたことが挙げられる。欧州では、180名の政治指導者、大手企業経営者、労働組合やNGOらが賛同する形で、コロナ後の経済復興の軸に、EUの経済戦略「グリーンディール」を据え、カーボンニュートラルな経済への移行を加速すべきと訴えた(「グリーン・リカバリー・アライアンス」)。結果として、たとえば、COVID-19で経営危機に陥った航空会社の救済条件として、大幅な環境負荷削減を課す政策が現実に採られたことは印象深い。いまだ日本政府は、大きな痛手を受けた産業を中心とした緊急経済対策を採るに留まっているが、政府が今後、菅義偉首相の『2050年までに温室効果ガス排出量実質ゼロ』の誓約にコロナ復興支援を連関させるような動きを見せれば、SDGsに向けた取り組みはさらに加速していくだろう。

COVID-19が及ぼす社会への影響は、SDGsの17ゴールに照らして分析することで俯瞰的に把握しやすい(図2)。全体を俯瞰して気づくのは、特にESGでいうS(Social:社会)領域にあたる、所得、ジェンダー、障害、人種、雇用形態といった、危機前にも存在していた格差の断層が、より深刻な結果を伴う形で顕在化していることだ。これまでESG投資においては、E(Environment:環境)重視の傾向がみられたが、今後はSの比重も高まることが予想される。

これらは、今後企業が社会課題を個別サイロ的に捉えるのではなく、課題間の相互リンケージに対する深い洞察をもって、複数の社会課題を同時に解決し得るビジネスモデルの確立を目指すべきであることを示唆している。例えば、脱炭素に向けた産業のシフトに際して、「既存の化石燃料産業から多くの離職者を出してしまうのではS領域の課題が深刻化してしまいかねない。そうではなく、多くの新規雇用を伴うインクルーシブな移行にすべき」との要求が、労働組合やNGOから上がっている。「Just Transition(公正な移行)」と呼ばれるこの考え方は、パリ協定やEUの「グリーンディール」にも盛り込まれ 、国連責任投資原則(PRI)の投資家向けガイダンスも発行されるようになっている。このJust Transitio …

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