新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミックは、社会全体に大きな爪痕を残すこととなった。2020年11月現在もいまだ収束の目処は立っておらず、その影響は計り知れない。感染症対策と経済再生の両立が喫緊の課題となる中、2030年までの長期的な国際目標である「SDGs」への取り組みは後退を余儀なくされてしまうのか――。こうした見方に対して、慶應義塾大学大学院教授・同大学SFC研究所xSDG・ラボ代表の蟹江憲史教授は異を唱える。
- この記事はマガジン「SDGs Issue」に収録されています。 マガジンの紹介
コロナ禍の影響は限定的、大企業は次のフェーズへ
「パンデミックという予想外の出来事で人々の活動が一時的に停滞することはあっても、普遍的な価値に基づく未来のゴールを見据えたSDGsの取り組み自体が止まることはない。むしろ世界的な危機だからこそ、SDGsの果たす役割は大きくなると考えています」
SDGs達成へ向けたベストプラクティスの創出など、企業との共同研究に取り組んでいる蟹江教授は、国内企業の状況をおおむねポジティブに捉えているようだ。2017年には経団連(日本経済団体連合会)が「Society 5.0 for SDGs」というスローガンを発表し、これに基づいて企業行動憲章を改定。経団連が産業界における旗振り役となったことで、大企業、特に上場企業ではここ数年でSDGsの周知が進んだ。「現在は具体的な施策の策定など“次の一手”へと向けた行動に動き出している」段階だと蟹江教授は言う。
国内企業の中で特に動きが早かったのが、もともと環境問題との関わり合いが大きく、グローバルにビジネスを展開している製造業だ。最も分かりやすい例としては、トヨタ自動車の取り組みが挙げられる。自動車を含む輸送セクターが排出するCO2は世界の総排出量のおよそ2割を占め、輸送セクターはCO2排出量削減を求める環境規制強化への対応を求められてきた。そうした中、トヨタでは「クルマの持つマイナス要因を限りなくゼロに近づける」ことを目指し、2015年10月に「トヨタ環境チャレンジ2050」を発表している。これは2050年のあるべき姿として「CO2(二酸化炭素)排出ゼロ」を実現させ、そのために6つの環境チャレンジを実施するというものだ。さらに、SDGsがゴールとして規定する2030年をマイルストーンとして、それぞれのチャレンジに対して具体的な数値目標を設定しているのが大きな特徴だ。
例えば、6つのチャレンジ項目の1つである「新車CO2ゼロチャレンジ」の内容を見ると、2050年の時点で新車1台当たりのCO2排出量を2010年と比較して平均で90%削減することを目指すとある。その実現のために、2030年には電気自動車・燃料電池自動車などのラインアップを拡充させて100万台以上を販売すること、グローバルでは電動自動車を550万台以上販売することを目標としている。同社ではこの取り組みにより、走行時のCO2排出量は2030年までに35%以上削減できると見込んでいる。
同様に、製品の製造から利用、廃棄までのライフサイクルやグローバル工でのCO2排出ゼロへのロードマップ策定、さらには各国の生産拠点における水環境へのインパクトを最小限に抑えること、車体や電池などのリサイクルなど循環型社会に適応したシステム構築、自然と共生する工場の実現や生物多様性保護の活動などの取り組みにもそれぞれ具体的な数値目標を掲げている。これらをSDGsの169項目のターゲットと照らし合わせていくと、「エネルギー効率改善(7.3)」「CO2削減(13.1)」「持続可能な産業プロセス(9.4)」などに該当し、SDGsの広範な目標をカバーしていることが分かる。
「トヨタのケースでは豊田章男社長が非常に強いリーダーシップを持ってSDGsの理念を先導しているのが特徴です。10年後どころか30年後の2050年という世界のあるべき姿を見据え、その理想的な目標からバックキャスト的な発想で経営を進められています。クルマの車両や製造ライフサイクルの革新といった点はもちろんですが、それに関わる従業員の多様性の実現などSDGsの理念に沿った取り組みを着実に進めているのが印象的です」
実際、2020年5月の決算説明会で豊田社長は「SDGsに本気で取り組む」と宣 …
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