激化する情報戦の内幕、
黒人有権者たちの戦い
2020年の米大統領選は、黒人有権者の投票を阻止したいトランプ陣営と、黒人の投票率を上げたいバイデン陣営の争いでもある。オンラインにおける有権者に対する欺瞞行為は前回の大統領選から劇的に増加しており、黒人コミュニティは投票阻止を目的とした行為の標的になっている。 by Tate Ryan-Mosley2020.10.27
今年8月、デトロイトの市外局番313で始まる約1万2000台の携帯電話が、「タミカ・テイラー」からの自動録音メッセージを受け取った。テイラーは、自分が「プロジェクト1599」という公民権団体のメンバーであると名乗り、郵便投票を申請すると政府のデータベースに個人情報が入力される可能性があることを警告するために呼びかけていると語った。さらに、あたかも黒人女性のような口調や言葉遣いで語りかけながら、黒人を主とする電話の受け手に対して次のように続けた。データベースは未執行の逮捕令状の照合やクレジットカードの債務の回収、そしてワクチン接種の義務化が開始される前に人々を追跡するために使用されるでしょう、と。
しかし、タミカ・テイラーは実在の人物ではなく、警告も虚偽だった。これは「ラスト・ベルト(Rust Belt)」と呼ばれる5つの州の激戦郡で黒人の投票を抑制するための選挙運動の一環だったのだ。10月初め、ミシガン州の司法長官は、1965年投票権法(日本版注:投票時の人種差別を禁じた法律)に違反して有権者の抑圧をしていたことを理由として、プロジェクト1599の創設者である悪名高き右翼の政治活動家、ジャック・バークマンとジェイコブ・ウォールを訴追すると述べた。バークマンとウォールは無罪を主張した。
米国中西部、特にウィスコンシン州、ミネソタ州、ミシガン州などのラスト・ベルトの黒人有権者は2020年の選挙結果の鍵を握っている。そのため、これらのコミュニティは意図的に、混乱を招くメッセージや脅迫、デマのターゲットにされている。これらは全て投票を思いとどまらせることを目的としている。
アフリカ系アメリカ人は通常、非常に政治に関心が高く、左派に票を投じる傾向がある。しかし、2016年の大統領選では、これらの人々の投票数が伸びず、民主党の歴史的牙城であるミネソタ州などが接戦となった。現在、2016年と同様に、大統領選の片方の陣営が黒人票を動員しようと躍起になる一方、もう一方の陣営は情報戦を通じて黒人の投票を抑圧しようとしている。投票の抑圧行為は、1965年投票権法のもとで違法となる可能性がある。一部の専門家は、インターネットの時代に適した、有権者の抑圧に対する新たな法を求めている。
「状況は厳しい」
デトロイトのロボコール・キャンペーンは、ミシガン州をはじめとする全国の黒人有権者が以前から感じている疑惑を利用したものだった。「通りで囁かれていることをただ凝縮して電話で伝えていただけです」とレイ・ラニエは言う。ラニエは、デトロイト地域の刑事裁判改革に焦点を当てる活動家グループおよび特別政治行動委員会である「ミシガン解放同盟(Michigan Liberation)」を組織している人物だ。
ラニエは1年の大部分をかけて、ロボコールがウエイン郡やオークランド郡で標的にしたのと同様の黒人主体のコミュニティに出向いて、投票を呼びかけてきた。多くの黒人有権者は、政府が自分たちの幸福を考えてくれているのか疑問に感じている最中に、真実に見せかけた虚偽のメッセージを目にしたり、アフリカ系アメリカ人の恐怖に直接働きかけるロボコールを受け取ったりしているという。アフリカ系アメリカ人は白人と比べて、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)に感染する可能性が2.5倍以上高く、致死率は2倍である。
「人々の頭の中をよぎるあらゆる不安を突いてきます。例えば、『タスキギー梅毒実験(日本版ウィキペディア)が多くの黒人の記憶に残るなか、政府がワクチン接種を強制しないと言っても信用できるでしょうか』といった具合です」とラニエは指摘する。「ロボコールは、このような潜在的な不安を改めて認識させる役割を担っています」。
ミシガン州はほとんどの年で政治的激戦地になっているが、ラニエによると2020年は特に試練にさらされているという。「多くのデマが流布されており、人々は誰を頼ればよいのかわからないと感じています。社会として拠り所にする前例がない状態なのです。状況は厳しいです」。
「投票の阻止」
ミシガン湖を挟んで対岸に位置するウィスコンシン州もホットスポットである。2016年の大統領選挙では、前回の選挙と比べて黒人の投票率がほぼ20パーセント減少し、ドナルド・トランプが同州におけるロナルド・レ …
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