KADOKAWA Technology Review
×
カリフォルニア州がガソリン車販売禁止へ 実現へ高いハードル
Courtesy: Tesla
California looks to ban gas guzzlers – but legal hurdles abound

カリフォルニア州がガソリン車販売禁止へ 実現へ高いハードル

カリフォルニア州のニューサム知事は、同州で販売される乗用車および小型トラックの新車を、2035年までに全て電気自動車にする計画を明らかにした。自動車業界からの反発は必至だ。 by James Temple2020.09.26

カリフォルニア州のギャビン・ニューサム知事は9月23日、ガソリンを燃料とする自動車およびトラックの新車の販売を廃止する大胆な計画を明らかにした。同州は2045年までにカーボンニュートラル(炭素中立)の達成を目標にしており、今回の決定はその実現へ向けた重要な一歩だ。しかし、同州最大の温室効果ガス排出源である自動車への規制は強い反発を招くとみられ、法的措置につながる可能性もある。特に、ドナルド・トランプ大統領が11月の大統領選で再選された場合、道のりはさらに困難になる。

ニューサム知事は、カリフォルニア州大気資源局を含む州機関へ対し、2035年までに州で販売される乗用車および小型トラックの新車を、全てゼロエミッション車とすることを「目標」にして規制を作成するよう行政命令を出した。これにより、将来販売される新車のほぼすべてが、バッテリーまたは水素燃料電池を使った電気自動車(EV車)に制限される。また、商業用の中型車および大型車の新車も、2045年までにほとんどをゼロエミッションにする必要がある。

同知事の移行計画は、内燃エンジン車への規制、補助金、その他の政策を徐々に強化したり拡大したりして達成されることになるだろう。もしこれらの規制が施行されれば、州による気候変動対策として過去最も厳しい政策のひとつとなり、自動車産業に大きな影響を与えることになりそうだ。

カリフォルニア州では、年間およそ200万台の新車が販売されている。そのほぼすべてがEV車になれば、黎明期にあるEV車にとっては大きな追い風となる。

「巨大市場であるカリフォルニア州の場合、州の政策、特に自動車政策は、全米さらには全世界へとカスケード効果をもたらします」。カリフォルニア大学デービス校のアリッサ・ケンダール教授(土木環境工学)は言う。

実際、カリフォルニア州で行政命令が発令されれば、EV車を生産する自動車メーカーもEV車の種類も増え、製造は拡大され、コスト削減につながる。市場が成長すれば、クリーン燃料車への大規模移行に必要な充電スタンドや水素燃料のインフラ構築が促されるだろう。

輸送分野からの二酸化炭素排出量も大幅に削減される可能性もある。乗用車と大型車両からの温室効果ガス排出量は、カリフォルニア州の全排出量の35%以上を占めている。自動車好きの住民が多い広大な州で、このシェアを削るのは並大抵のことではない(実際、カリフォルニア州では自動車による温室効果ガス排出量が増加している)。

しかし、ニューサム知事の命令は限定的で、航空機、鉄道、船舶には適用されない。また、すでに道路を走っているガソリン車が全て運転されなくなるには、まだあと20年ほどかかるとみられている。

スタンフォード大学法科大学院で環境政策を専門とするダニー・カレンワード講師は、そもそもこの規制が施行されるのか、またどの程度まで施行されるのかは、さまざまな要素によって変わってくると話す。例えば、政策を正当化するための法的根拠も問題となる。

ひとつの方法として、過去にカリフォルニア州が定めた排ガス基準に基づいて、新たな規制を作成することが挙げられる。同州は、排ガス基準を使って自動車メーカーに燃費の良い自動車を製造させた実績があり、その結果、全米の基準が引き上げられた。だが、このアプローチには、国の大気汚染防止法で設定された自動車排ガス規制よりも厳しい規制を適用する権限を州に認める、米国環境保護庁の許可が改めて必要だ。この問題はすでに、トランプ政権とカリフォルニア州の間で激しい論争になっている。

昨年、トランプ大統領はカリフォルニア州へ認められていた厳しい基準の許可を取り消すと発表し、同州とニューヨーク州は連邦政府に対して訴訟を起こしている。したがって、カリフォルニア州がこの方法を再び採用できるかどうかは、裁判所の判断や、来年1月に就任する次期大統領次第となる。

カリフォルニア州が作成する規制の中身に関わらず、自動車産業の反発は必至だ。そして訴訟の結果は、どの裁判所で争われるかによって変わってくる。最終的には、最高裁判所の判事の顔ぶれに左右されるだろう。

だが、どのような法的障壁が立ちはだかろうとも、拡大し続ける気候変動の脅威を少しでも減らすためには、自動車の炭素排出量を早急に削減しなければならない。サクラメントにある非営利団体ネクストジェン・ポリシー(NextGen Policy)の上級政策顧問であるデイブ・ウェイスコフはこう警告する。

「これは科学が求めていることです。そして、州の政策として次にとるべき論理的なステップです」。

人気の記事ランキング
  1. Who’s to blame for climate change? It’s surprisingly complicated. CO2排出「責任論」、単一指標では語れない複雑な現実
ジェームス・テンプル [James Temple]米国版 エネルギー担当上級編集者
MITテクノロジーレビュー[米国版]のエネルギー担当上級編集者です。特に再生可能エネルギーと気候変動に対処するテクノロジーの取材に取り組んでいます。前職ではバージ(The Verge)の上級ディレクターを務めており、それ以前はリコード(Recode)の編集長代理、サンフランシスコ・クロニクル紙のコラムニストでした。エネルギーや気候変動の記事を書いていないときは、よく犬の散歩かカリフォルニアの景色をビデオ撮影しています。
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る