アルテミス計画はいかにして
火星への一歩となるのか
米国が2024年に実施予定としている「アルテミス計画」の目標は、単に人類を再び月に送り込むことだけではない。月は、後に続く火星有人探査に必要となるテクノロジーの実験場として有用なのだとNASAは主張している。 by Neel V. Patel2020.09.28
「人類が宇宙を旅することを神が望んでいたから、神は人類に月を授けたのでしょう」。これは、有名なロケット科学者のクラフト・エーリケ博士が1984年に発した言葉だ。人類文明を地球以外の太陽系に拡大するための踏み台として、月がどれほど有用であるかを、エーリケ博士は強調したかったのだ。この発言があったのは、アポロ計画で最後の月面着陸が成功してから10年以上経った後のことだ。エーリケ博士は、米国航空宇宙局(NASA)と米国の他の宇宙計画が、より遠く離れた火星などの惑星の探査から撤退し、代わりに地球周回軌道に焦点を合わせるのを見つめていた。
米国はついに、アルテミス(Artemis)計画で再び月を目指す。2024年に宇宙飛行士を月へ送り込むという野心的な(そして、非現実的な)目標を掲げている。しかし、ホワイトハウスとNASAにとって、アルテミス計画の目的は有人月面着陸の再開だけではない。月はまた、後に続く火星計画を確立するための最適な基地でもある。月にしろ火星にしろ、目標は単に旗を立てて地球に帰還することではなく、人々が暮らし、働ける恒久的な駐留拠点を維持することにある。
NASAがアルテミス計画の最新ロードマップを9月21日に発表したとき、NASAのジム・ブライデンスタイン長官は「私たちは科学的発見と経済的利益、そして新世代の探検家へのインスピレーションを得るために再び月を目指します。持続可能な駐留拠点を確立すると同時に、人類初の火星着陸へ向けて弾みをつけていきます」と語った。
しかし、NASAはこの計画をどのように実行するかについては一切明確にはしなかった。アルテミス計画の遂行に最も重要なプロジェクトは、次世代ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」と宇宙船「オリオン(Orion)」であるが、どちらもまだ完成していない。多くの専門家は口をそろえて、アルテミス計画は資金不足だと述べている。NASAの有人探査責任者は、昨年だけでも3回交代している。NASAは月面着陸船の選択さえしていない。このような状態で2024年(まったく不確実な予定)に月に到達したとしても、その後どうやって火星駐留へ向けて進むのか?
「私たちが今抱えている最大の問題は、地球外で居住して生産的に仕事をする方法がわからないことです」。ノートルダム大学のエンジニアで月探査の専門家であるクライヴ・ニール教授は言う。「まったく見当もつかない状態です」。宇宙の超低温、非常に高レベルの放射線、小さい重力、そして酸素と水が不足する過酷な環境で、数か月または最終的には何年も人間が暮らし、働くために必要となるテクノロジーが、適切に試験されたことはこれまで一度もない。
「しかし、私たちはこのようなテクノロジーを試験するための独自の実験場を持っています」とニール教授は話す。最近、持続可能な宇宙開発を推進する非営利団体であるエクスプローラー・マーズ・インク(Explore Mars, Inc)が、ニール教授をはじめとする多数の研究者と共同執筆した新しい報告書を発表した。この報告書では、火星探査に欠かせない数十の活動とテクノロジーを特定し、それらがアルテミス計画や進行中の月探査計画を通じて開発と試験が可能なことを示している。
火星での居住に不可欠な事柄のいくつかは、2024年に有人月面着陸を予定している「アルテミス3」ミッションの実施直後に月で実証されることになるだろう。生命維持が最優先事項だ。人類はこれまで、地球以外で長期的な居住地を築いたことはない。国際宇宙ステーション(ISS)での長期ミッションから学んだ多くのことを適用することになるとはいえ、月と火星の基地 …
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