在宅ワークで消えた「雑談」
あの手この手で縦割り破る
一見、無駄な時間のように思える職場での井戸端会議は、信頼関係を築き、絆を深めるのに役立つ。在宅ワークを余儀なくされる中、同僚や赤の他人との何気ない会話をするために創造的な方法を考え、試している人たちがいる。 by Tanya Basu2020.08.25
トム・マローンは、パンデミック(世界的な流行)によって突然大勢の人々が在宅ワークを余儀なくされたからといって、ウォーターサーバーを囲む雑談が絶滅したとは思いたくなかった。職場でのとりとめもない会話が、人々の信頼を築き、絆を深めるのに役立つと知っていたからだ。テクノロジーと組織設計の研究に携わる研究者であるマローンは、バーチャル会議やオンライン・ワークスペースにも「何気ない非公式な交流をサポートする手段があってしかるべきだ、と思いました」という。
そこで、マサチューセッツ工科大学(MIT)スローン経営大学院で教鞭を執るマローン教授は、大学院生と共同でミングル(Minglr)を開発した。ミングルは、誰でもダウンロードができ、チャットしたい人との出会いに使えるオープンソース・ソフトウェアだ。AOLが配布していたインスタント・メッセンジャー(AIM)とビデオ会議ソフトウェアのズーム(Zoom)を1つにしたようなインターフェイスで、左側のパネルには時間のある人と、その人のアバターや肩書き、会話したい関心事などの関連情報が表示される。中央のパネルには、いま話したがっている人の一覧が表示され、右側のパネルには、将来的に会話をしたい人のリストが表示される。
マローンは、6月のバーチャル会議でミングルをテストし、そのときの反応に関する論文を書いた。出席者の約3分の1がこのソフトウェアを利用し、1人あたり平均2回会話をした。ミングルやズームのようなツールが、ウォーターサーバーやコーヒー・マシンの周りで雑談しているような感覚を完全に再現するのは不可能だとマローン教授は認めている。だが、マローン教授はパンデミックのせいで、いわゆる井戸端会議がなくなっても構わないとは考えていない。
このように自然に発生する何気ない交流を、絶滅から救えると考えているのはマローン教授だけではない。パンデミックが伝統的なオフィス文化を根底から覆す中、オフィスで働いていた人たちはこのようなつながりを求めて創造的な方法を見つけている。新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)のワクチンが開発され、多くの人が職場に復帰できる安全な世の中になった後も、こうした変化は長く残る可能性がある。間仕切りのないオフィスはすでに廃止に向かって再構築されており、飲食コーナーや会議室などの共有スペースは立ち入り禁止になる可能性があることを考えると、ウォーターサーバーでの雑談は一時代前の遺物になるかもしれない。
だとすれば、それに代わる仕組みを作ることが重要だ。専門家によると、例えば、クリエイティブ部門と財務部門といった縦割り組織の中で交流が難しい職場で働くと、影響が軽い場合でも人々は自分が働き蜂になったような感覚を覚える恐れがあるという。最悪の場合、創造性や共同作業が阻害されることもある。この種の雑談は「関係性の歯車を回し続ける効果があるから非常に重要 …
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