新型コロナ特需で17万人
アマゾン、大量採用の実態
新型コロナウイルスのパンデミックによって利用が急増したのが電子商取引だ。空前の人手不足に陥った業界最大手のアマゾンは、採用活動・研修プログラムのバーチャル化を前倒して、17万5000人の新規雇用を進めている。 by Hayden Field2020.06.18
アマゾンにとってさえ、経験したことのないことだった。
電子商取引大手アマゾンの2020年第1四半期の売上高は、昨年同期に比べ26%増加した。大規模なパニック買いが発生したためだ。3月中旬からAmazon.comの検索ランキングで上位を占めたのは、トイレットペーパー、手指消毒液、クロロックス(Clorox)消毒シートだったが、屋内退避や社会的距離(ソーシャル・ディスタンス)の確保により、今やオンライン・ショッピングはあらゆるものを買うための主な手段となった。アマゾンは2カ月で従業員17万5000人を採用する計画を決定したが、増員には雇用・研修プロセスのほぼ完全なバーチャル化が必要となる。
MITテクノロジーレビューは、採用改革の各ステップで陣頭指揮をとる複数のアマゾン幹部に話を聞いた。幹部らは前例のない状況において、総力を挙げた緊急対策について説明してくれた。一方、大量採用によって仲間入りした新人たちに話を聞くと、最初の2、3週間のうち現場は大混乱していたようだ。
アマゾンの労働者に対する新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の安全対策は物議を醸している。4月中旬、カリフォルニア州の倉庫に勤務する従業員が、入社からわずか2週間で亡くなったとロサンゼルス・タイムズ紙が報じた。新型コロナウイルス感染症で亡くなった同社の倉庫作業員8人のうちの1人だ。不安に駆られた一部の従業員はネット上で団結。ストライキに発展したものの、アマゾンは活動に関与した2人の従業員を解雇している。倉庫作業員のグループは6月3日、不十分な労働条件と安全対策の過失が、労働者や家族に許容できないリスクを生み出していると主張し、アマゾンを相手取って訴訟を起こした。原告の1人は職場で新型コロナウイルスに感染し、同居する家族を亡くしたという。訴訟では、アマゾンは「見かけのコンプライアンス体制を作ろうとしている」と主張し、5月末には原告団が勤務するニューヨークのJFK8倉庫で「新規感染者が確認された」としている。
5月19日、アマゾンは、マスクや手袋の支給、「時給労働者の賃金アップ」などを含む新型コロナウイルス対策に4〜6月で約40億ドルを投じる計画を発表した。ただ、その後も配送需要は高まっており、アマゾンは新規採用を続けている。同社は最近、カナダでバーチャルな採用プロセスを開始し、5月28日には12万5000人の新規採用者に「6月から通常のフルタイムに移行する(中略)機会」を提供すると発表した。
全力疾走への準備
アマゾンで労働力配置を担当するトロイ・ウインターズ部長は、パンデミック(世界的な流行)による初期の大混乱の最中、経営陣は、公衆衛生の制約に従いながら必要な人員レベルを満たす採用プロセスの調整方法を検討し始めたと説明する。当時は新型コロナウイルス感染症がどれほどのスピードで広がるか、その結果として注文量がどれほど伸びるかは把握していなかったという。しかしすぐに「これまでの方法を続けていた場合、社会的距離を確保しながら人による十分な作業は数学的に不可能になる」ことに気づいた。
社会的距離の確保というガイドラインは、説明ビデオの視聴や仕事内容の確認、身分証(ID)の手続きなどが数時間続くアマゾンの典型的な採用イベントの前に立ちはだかった。3月4日、幹部チームは、これらのプロセスを全面的に見直し、ほぼ完全にバーチャル化するしかないと判断した。
20万人近くの新人を抱えて何かをするとなると、特に研修のような必要不可欠なものの場合 …
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