新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的な流行)による影響を緩和するためにできる最も重要なことが、感染者数が増加する曲線を平らにすることであるのはいまや周知の事実だ。中国とイタリアは、それに失敗したときに到来する厳しい未来を示している。逼迫した病院は救命処置を受ける患者の選択を余儀なくされ、疲弊した医師は感染して重症化するリスクが高くなり、その結果、死亡率が劇的に増大する。
今まさに、米国の多くの病院が同じ運命に直面しようとしている。ワシントン大学衛生基準・評価研究所(IHME:Institute for Health Metrics and Evaluation)は、今後4カ月でパンデミックが米国の医療施設にもたらす負担に関する予測を毎日立てている。この予測は、各州の集中治療室(ICU)と病床の受け入れ可能人数、および社会距離政策に関する最新データに基づいている。学校の閉鎖や自宅待機命令、不要不急の事業の休止、移動制限をはじめとする社会距離政策の影響は、そうした措置によって各地のウイルスの感染拡大がどれほど鎮静化したかに関するデータを利用してモデル化されている。
次のグラフは、各州で必要になると予測されるICU病床の最大数が、実際の受け入れ可能人数を上回る回数を示している。コネティカット州、マサチューセッツ州、ニュージャージー州、ニューヨーク州、ロードアイランド州の逼迫の度合いが非常に高い。現在の社会距離措置を継続する限り、それ以外の州は幸いにも最悪の事態は免れる見込みだ。
IHMEは、各州が予測期間を通じて社会距離措置を継続することを前提とした各州の新型コロナウイルス感染症関連の死者数も予測している。次のグラフは、州全体の人口よりも、予測されるICU病床不足数の方が予測される死者数に大きい影響を及ぼすことを明確に示している。たとえばカリフォルニア州は人口が最多だが、ICU病床数の余剰が予測されている。そのためカリフォルニア州の予測死者数は、同州に比べて人口が非常に少ないマサチューセッツ州やニュージャージー州の予測死者数よりはるかに少ない。
ただし、これらのグラフは特定の時点のスナップショットを表していることに留意する必要がある。いずれのグラフも4月5日に推計された予測値を使って作成された。つまり、各州がそれぞれの曲線を平らにしたり、ICUの受け入れ能力を増やしたりするなどの新しい措置を実行するにつれて予測は変化する可能性がある。
これらの予測は、すでに実施されている社会距離措置が無駄骨に終わることを意味しているわけではない。社会距離措置が実施されていなければ、グラフが描く未来はこれよりはるかに厳しいものになる可能性がある。予測はまた、中国やシンガポールなどの国で始まっているウイルス感染の第二波が米国を襲ったときに、より積極的な対策を講じる必要があることを示す重要な教訓の役割も果たしている。
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- カーレン・ハオ [Karen Hao]米国版 AI担当記者
- MITテクノロジーレビューの人工知能(AI)担当記者。特に、AIの倫理と社会的影響、社会貢献活動への応用といった領域についてカバーしています。AIに関する最新のニュースと研究内容を厳選して紹介する米国版ニュースレター「アルゴリズム(Algorithm)」の執筆も担当。グーグルX(Google X)からスピンアウトしたスタートアップ企業でのアプリケーション・エンジニア、クオーツ(Quartz)での記者/データ・サイエンティストの経験を経て、MITテクノロジーレビューに入社しました。