新型コロナ検査「結果待ち」7日も——迅速化には何が必要か?
米国の医師がフェイスブック上で医師を対象に実施したアンケートによると、新型コロナウイルスの検査結果が出るまでには依然として長い時間がかかっているようだ。 by Tate Ryan-Mosley2020.04.09
北カリフォルニアの救急医、ジェイソン・ベイ医師は、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の患者にひと月近く対応している。ベイ医師が3月の第2週あたりに初めて新型コロナウイルスの検査を発注し始めたとき、勤務先の医療グループは、外部の検査機関から結果が出るまでの時間を48~72時間と見積もっていた。しかし、ベイ医師は「当初から、多くの検査で結果が出るまでに5〜6日、もしくは7日かかっていました」と言う。
陽性反応が出た患者と接した後、喉に痛みが生じたベイ医師は自己隔離し、仕事を休んで自宅で待機した。そして、勤務先の医療グループとは別の、スタンフォード大学の系列病院でCOVID-19の検査を受けた。スタンフォード大学は独自に検査体制を構築しており、結果が出るまでには3日もかからなかった。結果は陰性だった。
ベイ医師が仕事に復帰してみると、検査結果が出るまでさらに時間を要するようになっていた。多くの検査で1週間以上かかっていた。そこで3月22日、ベイ医師はフェイスブック上の医師の非公開グループで、米国内の医師たちがどんな体験をしているかを尋ねた。1500人以上から回答があり、40%以上が結果が出るまでに7日以上を要していることが分かった。
新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)への米国の対応において、検査の問題はいまも一番の緊急課題だ。3月31日、米国は全体で100万人を検査したと発表した。トランプ政権が繰り返し約束したスケジュールから何週間も遅れている。
検査は単なる統計以上の意味がある。新型コロナウイルスの拡散の度合いや深刻さを理解する上で重要なのだ。医療従事者は、感染者以外の人々を安全に扱えるよう、すばやい検査を必要としている。また、近い将来、どれだけの人が免疫を獲得したかを理解したり、自宅から出て経済活動を再開できるかを把握したりするためにも、検査が必要だ。
しかし、COVID-19の検査のために検体を採取された国民がどんどん増える中、サンプル回収から検査結果が出るまでの時間がますます予測不可能となっている。ベイ医師の質問への回答にも表れているが、需要の急増にうまく対処できていない検査機関もある。
ベイ医師は、医師からの回答に2つの顕著なパターンを発見した。「民間の検査機関で検査している外来患者は所要時間がどんどん長くなっています。これに対し、入院患者の検査については時間が短くなっています」。
状況を理解するために、ベイ医師は表計算ソフトで回答を集計した。そして、データを分析した結果、需要に忙殺されるつぎはぎだらけの体制があらわとなった。しかし、明確で修正可能な問題や、希望の兆しも見えてきた。
誰が検査しているのか?
現在、米国で新型コロナウイルスの検査を実施している検査機関は主に4種類ある。
- 当初、米国のすべての検査を担っていた(そして、アウトブレイク初期のボトルネックと広く認識されていた)連邦政府運営の疾病予防管理センター(CDC)
- 州が運営する公衆衛生研究所
- 大規模な医療グループにおける一部門である病院内ラボ
- アラップ(ARUP)やバイオレファレンス・ラボラトリーズ(BioReference Laboratories)、ラボコープ(LabCorp)、メイヨー・クリニック・ラボラトリーズ(Mayo Clinic Laboratories)、クエスト・ダイアグノスティクス(Quest Diagnostics)、ソニック・ヘルスケア(Sonic Healthcare)といった民間の検査機関。現在、全国的に検査の大部分を占めている
現在のところ、米国でこれまでに実施された病院内検査の数に関する総計データはないが、割合は小さなものだろう。大学病院が多数あるマサチューセッツ州の保健機関によれば、同州で実施されたCOVID-19検査全体のうち、約19%が病院内ラボ、65%が民間検査機関での実施だったという。ほとんどの州において、病院内ラボでの検査数がさらに低いのはほぼ確実であり、設備が充実した最大規模の病院のみが自前の検査施設を整備している傾向が見られる。
民間検査機関の検査が遅い理由は?
検査の遅れの原因は主に3つある。第1の要因は物資の不足だ。民間検査機関でCOVID-19の検査を実施するには、まず、鼻・喉用の綿棒などの物資を検査所に供給する。しかし、大手の民間検査企業を含む業界団体である米国臨床検査所協会(American Clinical Laboratory Association:ACLA)によると、検査キットの供給はいまだに問題となっており、試薬や防護服、綿棒も同様の状態だという。どれか1つでも欠けると、プロセス全体が止まってしまう。「私たちの理解では、継続的な検査の拡大に必要な物資が利用できるかを予測できる検査機関は1つもありません」とACLAのジュリー・カーニ会長はいう。
医療提供者が、民間検査機関を柔軟に変更することはほとんど不可能だ。契約によって病院はそれぞれの検査機関との取り決めに縛られているためだ。検体準備の仕様も検査機関によって異なることがある。そのため、発注が殺到している検査機関から余力のある検査機関に検査依頼先を変更するのも難しい。
第2の要因は資金不足だ。連邦政府がCOVID-19の検査を無料で実施すると国民に約束したにもかかわらず、検査リソースの費用を誰が負担するのかという点はほとんど明確になっていない、とカーニ会長はいう。このため、検査機関が対応能力を強化し続けるのが難しくなっている。
第3の要因は、検査サンプルの優先順位付けがうまくいっていない点である。民間検査機関は、緊急性がもっとも高いものを優先することで検査需要の急増に対処しようとしているが、CDCの指針に従い、患者の検査の仕分け作業は診療所や病院に頼っている。検査待ちの列がうまくさばけなければ、プロセス全体が遅れてしまう。ACLAは、4月2日にCDCに送った書簡の中で、検査の優先順位付けについて医師や病院を指導するように求めた。
病院内の施設は所要時間が短いが、処理量は少ない
カリフォルニア州は検査の遅れが特に深刻な州の1つだ。4月2日時点で、合計約9万5000件の検査に対して5万9000件以上の結果が出ていない(しかし、2日後には未処理分が1万3000件まで減った)。
病院内検査には、民間検査機関よりも優れた点がいくつかある。最も明白なのは、検査試料を梱包し、異なる施設やシステムの間でやりとりする必要がない点だ。検査の処理、優先順位付け、追跡のすべてが、1つのシステムの中で実現する。これにより形式的な手順が排除され、効率が上がる。また、自動化された大規模な検査機関よりも検査のワークフローに柔軟性が生まれ(たとえば、スタンフォード大学には検査の処理方法が4種類ある)、供給量の変動に対応しやすい。
おそらくもっとも重要な点は、病院内ラボでは、民間検査機関の処理量と比べてわずかな割合しか検査されていないことである。「医療システムと連携がとれていない国全体を検査しようとしたら、処理時間が長くなるのは当然でしょう」。スタンフォード大学の臨床ウイルス学研究所(Clinical Virology Laboratory)の医療部長であるベン・ピンスキー准教授は語る。この研究所は現在、1日最大2000件の検査を処理でき、検査に必要な時間は平均で24時間を切っている。4月1日時点において、カリフォルニア州で実施された3万件ほどの検査のうち約1万件を担当した。
ロシュ(Roche)のような大手メーカーが、事態をさらに改善し始めている。ロシュは最近、地域病院が外部の検査機関に検体を送ることなくCOVID-19を検査できるような機器の販売を開始した。現場で検査できる病院などの施設が増えることで、民間検査機関の緊迫感がある程度やわらぎ、待ち時間が短くなる可能性がある。
ピンスキー准教授は、ある傾向の始まりだとして楽観的な見方をしている。「これらのさまざまな検査が利用できるようになれば、検査を受けられる患者の割合も上がっていくでしょう」。
今後の展望
しかし、処理能力はそれほど早くは強化されないかもしれない。ベイ医師は、数日間の隔離生活にまったく苦労はなかったと言う。それでも、生後10か月の子供の面倒を見なければならなかった妻にとっては大変なものだったし、ベイ医師が働く病院にも不利益が生じた。しかし、他の人々についてはさらにリスクが大きい。高齢者や貧困者を最大14日間隔離して、検査結果が出るまで待機させるのは現実的ではないし、安全でもないだろう。検査に要する時間が長ければ、新型コロナウイルスに感染しているかもしれないと考えている医療従事者が、長い間自宅待機させられることにもなる。
ベイ医師にとって重要なのは、実際の現場における変化だ。今のところ、それほどの変化は起きてないとベイ医師は言う。「『このようなすばやい検査が実現する』とか『これらがすべてFDA(米国食品医薬品局)に承認され、すばやい追跡が実現する』といったことを耳にしますが、民間検査が利用できるようになることを除いて、それらが実現しているのをまったく見たことがありません」。
もしそうした解決策が実現する場合、異なる施設でのさまざまな検査オプションが混在したものになりそうだ。たとえば、病院内ラボは、優先順位がもっとも高い人々(医療従事者や重篤患者)にすばやい検査を実施するのに適している。しかし、規模を拡大するには資金や人的資源が必要だし、小規模な地域病院では、新しく開発された検査システムを実施するための支援やトレーニングが必要となる。
民間検査機関には、現状よりもさらに規模を拡大できる見込みがある。しかし、議会から予算を確保する明確な根拠を提示し、サプライチェーンの一時的な障害を防ぐ余裕をもうける必要がある。検査を開始する民間検査機関が増える中、検査のプロセス策定や優先順位付けの際にその処理能力を考慮しておけば、未処理分を減らせるだろう。
米国が、新型コロナウイルス検査に関する検査機関のネットワークに必要な変更を加えることができれば、この先6カ月間の苦労を多少は減らせるかもしれない。真の意味で国民に大量の検査を導入するには、5分で結果が出ると言われているアボット・ラボラトリーズのような、すばやくて費用のかからない検査が必要だ。検査が家庭でできるようになれば、さらに検査機関の負担は軽減されるだろう。こうした進展により、接触者の追跡や感染ホットスポットが現れた際の特定に必要な量の検査が提供できるだろうし、無症状の人が感染していないことも確認しやすくなるだろう。これらはすべて、労働者が仕事に復帰するために欠かせない要素だ。そのせいで大手の民間検査機関や医療グループに依存することになろうが、新たな検査装置を全国の病院で稼働させることになろうが、すべての努力は意義のある貢献になる。「私たちは皆、ともに戦っているのです」とカーニ会長は話している。
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- テイト・ライアン・モズリー [Tate Ryan-Mosley]米国版 テック政策担当上級記者
- 新しいテクノロジーが政治機構、人権、世界の民主主義国家の健全性に与える影響について取材するほか、ポッドキャストやデータ・ジャーナリズムのプロジェクトにも多く参加している。記者になる以前は、MITテクノロジーレビューの研究員としてニュース・ルームで特別調査プロジェクトを担当した。 前職は大企業の新興技術戦略に関するコンサルタント。2012年には、ケロッグ国際問題研究所のフェローとして、紛争と戦後復興を専門に研究していた。