親子の「在宅疲れ」に救い、FBの子ども向けメッセンジャー
新型コロナウイルス感染症がもたらした新しい日常の中で、子どもたちは「補助輪付きのテクノロジー」を使って友だちとのつながりを維持しようとしている。大人たちにとっても大きな手助けになっているようだ。 by Tanya Basu2020.04.07
キャシー・ウィルソンは、フェイスブック・メッセンジャーから携帯電話に奇妙な通知を受けた。従妹から連絡があったことを知らせるものだった。それ自体は奇妙なことではなかったが、彼女の従妹は10歳だ。 フェイスブックに参加するには13歳以上でなければならない。
ウィルソンは、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の危機によってオレゴン州で互いに引き離されるまで、「私たちはかなり頻繁に会っていました」という。「従妹のガールスカウトの友だちがみんな『それ』を手に入れたので、私に連絡をしてきました」。
「それ」とは、 フェイスブック・メッセンジャー・キッズのことだ。サービスとしては分離されているものの、大人には馴染みのあるフェイスブック・メッセンジャーの関連製品にあたる。2017年12月にリリースされたメッセンジャー・キッズは、フェイスブックに参加できない幼い子どもが、両親のメッセンジャー・アカウントを使って他の子どもたちと交流できるツールだ。 保護者は完全なアクセス権を持ち、子どもが連絡する相手を承認する必要がある。子どもたちはテキストを送ったりビデオチャットに参加したり、友だちにスタンプを送ったりできる。
だが、批評家はすぐにフェイスブックを非難した。フェイスブックが、子どもたちを将来の見込み客を囲い込もうとしているという主張だ。 メッセンジャー・キッズの立ち上げから数カ月後にはケンブリッジ・アナリティカ事件が起き、未成年者に歩み寄るフェイスブックの意図を多くの人が疑うようになった。
新型コロナウイルス感染症の危機と、それを受けた学校の休校により、メッセンジャー・キッズの人気は予想以上に伸びている。スマホアプリのダウンロード数を集計しているセンサー・タワー(SensorTower)の調べによると、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが発生して以来、メッセンジャー・キッズのダウンロード数は著しく増加したという。
「妻にメッセンジャー・キッズを見せてもらいました。母親たちの間ではみんなこのアプリの話をしているそうです」というのは、ミズーリ州の社会科教師であるJ.R.ウェルズだ。ウェルズの7歳の息子ブレーデンは、お気に入りのテレビ番組「マスクド・シンガー(The Masked Singer)」について友だちと話せなくて淋しがっていた。隔離から2日ほどして、ウェルズ夫妻がメッセンジャー・キッズをダウンロードすると、ブレーデンは年長の子どもたちがティックトック(TikTok)上でやっているように、友だちとチャットをしたり、歌とダンスの複雑な振り付けを始めたりした。
ウェルズは、メッセンジャー・キッズがフェイスブックの製品であることを気にしていないわけではない。実際、彼はそのことに関して不快感を抱いている。ウェルズは「私自身はフェイスブックに登録していません」という(ブレーデンのアカウントは妻のアカウント経由で取得したもの)。「それでも私たちは、ブレーデンの活動を監視しているので少しは安心です」。メッセンジャー・キッズは今年2月、チャットログを含む追加のペアレンタル・コントロールを導入した。
ニューヨーク州シラキュースに住むダニエル・シエラスキーも、ウェルズの心情に同調する1人だ。シエラスキーの5歳の息子は、自分の顔をダンスするクマに重ねたり、友だちとビデオチャットをしたりしている。シエラスキーはフェイスブックを、「極めて卑劣な会社の1つ」と呼ぶ。しかし、彼はメッセンジャー・キッズを正当化し、「メッセンジャー・キッズは、買い物をしたり、投稿に『いいね』をしたり、コンテンツを閲覧したりといった、フェイスブックが活用できるような情報を提供しません。子どもたちは、ただビデオチャットやゲームをしているだけです」と話す。
大人たちをバーチャルにつなぐことでズーム(Zoom)への注目が高まっているが、子どもたちの繋がりははるかに漠然として混乱している。ズームで友だちに会うのを楽しみにしている未就学児の話は微笑ましいものだし、主に小学生向けに作られているアマゾンの「エコー・ドット・キッズ(Echo Dot Kids)」はペアレンタル・コントロールと子ども向けの本や歌、ゲームに加え、ユーザー同士が通話できる機能を持つ。しかし、米国の小学生のほとんどは、ズームのビデオチャット機能やエコー・ドット・キッズを学校を通じては利用できない。学校がすべての子どもたちに平等な学習機会の提供を義務付ける法律があるためだ。実際に、平等な学習機会を徹底するのは難しい。したがって、小学生の子どもたちがこの期間中、社会的に取り残される可能性がある。そして、テキストを送ったり友だちと通話したりする自由がない、またはその年齢に達していない子どもたちは、欲求不満や孤独を感じる可能性がある。
ウェルズやシエラスキーのような保護者が、フェイスブックへの不快感を忘れようとするのには理由がある。子どもたちは、ズームやフェイスタイムを使ってバーチャルで対面して遊ぶのは難しいし、自分のスマホでテキストを送信したり、 ハウスパーティ(Houseparty)などのアプリを使ったり、ソーシャルメディア・アカウント持ったりするには早すぎるからだ。そんな子どもたちが、メッセンジャー・キッズなら連絡を取り合うことができるのだ。
「ブレーデンは友だちに会えないので、私たちが手助けする必要もあります。ブレーデンは友だちとの会話をとても楽しんでいて、ハッピーで前向きです」。ウェルズはこう話す。 家で仕事をこなす必要があり、不安で疲れ果てている親にとって、メッセンジャー・キッズは天の恵みなのだ。
メッセンジャー・キッズのプロダクト・リーダーであるモーガン・ブラウンは、メッセンジャー・キッズを「補助輪を備えたテクノロジー」と呼ぶ。 子どもたちは初めてテキスト入力に足を踏み入れるだけでなく、ティックトックやスナップチャット(Snapchat)、インスタグラムなど、他のプラットフォームで見られる、スタンプやGIFアニメといったクリエイティブな効果を初めて体験できる。
究極的には、メッセンジャー・キッズは、この新しい日常に適応するために最善を尽くそうとするシエラスキーのように、時間に追われる大人のためにある。シエラスキーは自宅で仕事をし、家事をこなしながらホームスクールと2人の子どもの世話をするのは難しいという。「私は現在の状況を、できる限り実行可能にしようとしているのです。そのためにはいくらかの妥協が必要になります。テクノロジーが私たちの家族をつなぎとめています」。
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- 人間とテクノロジーの交差点を取材する上級記者。前職は、デイリー・ビースト(The Daily Beast)とインバース(Inverse)の科学編集者。健康と心理学に関する報道に従事していた。