追跡アプリで新型コロナの拡大防げ、MITの研究者などが開発
マサチューセッツ工科大学やハーバード大学のチームが、新型コロナウイルスの感染拡大を防ぐことを目的とした無料アプリを公開した。 by Will Douglas Heaven2020.03.19
ユーザーがどこへ行き、誰と出くわしたかを追跡した個人情報を、プライバシーを保護したまま、他のユーザーと共有するアプリが、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の拡大阻止に役立つかもしれない。マサチューセッツ工科大学(MIT)メディアラボでこのアプリの開発チームを率いるラメッシュ・ラスカー准教授はそう話す。MITとハーバード大学のチーム、フェイスブックやウーバーなどの企業のソフトウェア・エンジニアが自由時間を使って開発した「プライベート・キット:セーフパス(Private Kit: Safe Paths)」と呼ばれるこのアプリは、無料で公開されている。
世界保健機関(WHO)は、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)の感染拡大を封じ込めるために、積極な対策を呼び掛けている。感染した個人を特定して隔離するだけでなく、感染者が接触した人たちと感染者が訪れた場所を特定することで、被接触者たちを検査したり、その場所を消毒したりできるようになる。いくつかの国、たとえば中国では、政府がこのデータを人々のスマホから抽出して処理している。しかしこの種の政府による監視は、米国や英国といったより民主的な国々では受け入れられないだろう。さらに、新型コロナウイルスに感染した人々が社会的な偏見に直面することも、個人を特定する情報を非公開にする理由の1つとなっている。
「プライベート・キット:セーフパス」は、同ネットワーク内のスマホの暗号化した位置データを、中央集権的ではない方法で共有することでプライバシーの不安 を回避している。このアプリを使えば、ユーザーは新型コロナウイルスの保有者と接触したかどうかを、(もしその保有者が感染情報を共有していれば)個人を特定せずに見ることができる。陽性結果が出たユーザーは、位置データを保健当局と共有することを選択でき、保健当局はその情報を公開できる。
ラスカー准教授は、きめ細かく追跡することで特定の場所を閉鎖して消毒する方が、包括的な封鎖よりも良いと考えている。包括的な封鎖は社会的にも経済的にも混乱をきたすからだ。
ただし、このアプリが効果を発揮するのは充分な数の人が利用した場合に限られており、だからこそ、ラスカー准教授とMITメディアラボのチームはアプリの知名度を上げたいと考えている。新型コロナウイルスが集中する地域を正確に示すことは韓国などでは効果があったようだ。韓国では新型コロナウイルス保有者が訪れた建物の外に検査センターを設置している。しかし、中途半端な情報は、間違った安心感につながる可能性もある。それは、アプリが特定の場所を、安全でないのに安全であるとした場合だ。アプリは新型コロナウイルスが到達したことがわかっている場所だけを警告するもので、ウイルスがこれから向かおうとしている場所については警告しない。
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- ウィル・ダグラス・ヘブン [Will Douglas Heaven]米国版 AI担当上級編集者
- AI担当上級編集者として、新研究や新トレンド、その背後にいる人々を取材しています。前職では、テクノロジーと政治に関するBBCのWebサイト「フューチャー・ナウ(Future Now)」の創刊編集長、ニュー・サイエンティスト(New Scientist)誌のテクノロジー統括編集長を務めていました。インペリアル・カレッジ・ロンドンでコンピュータサイエンスの博士号を取得しており、ロボット制御についての知識があります。