「最悪の難病」表皮水疱症を治療できる遺伝子療法
スタンフォード大学の研究者が、患者自身の皮膚細胞で、表皮水疱症の遺伝子療法を治験中だ。 by Emily Mullin2016.12.22
モニーク・ローダーは一見、他の赤ちゃんと同じ健常児だった。しかし、出産証明書の記念カードに小さな足型を押した時に水膨れができ、医師はモニークが表皮水疱症だと気付いた。表皮水疱症は、皮膚がとても弱くなり、ちょっと触れただけで皮膚が剥がれ落ちてしまう悪夢のような病気だ。
現在32歳のローダーは、今年スタンフォード大学の遺伝子療法研究に参加した。ローダーからわずかに皮膚を取り除き、遺伝子を操作してiPhoneサイズのシートで培養する研究だ。
培養後、外科医がひどい傷(16年間癒えなかった創傷がある)に遺伝子操作後の皮膚を移植すると、創傷部はようやく治った。「自分の皮膚が治癒したのを見るのはただ衝撃的でした」とローダーはいう。
表皮水疱症は長年「聞いたことがないほど最悪の病気(Worst Disease You’ve Never Heard Of)」と呼ばれてきた。患者は包帯を巻き、和らぐことのない疼痛に苦しんできた。安楽死を合法化しているオランダでは、表皮水疱症の苦痛から逃れるため、2人の子どもに安楽死が執行された。
デオキシリボ核酸(DNA)の変異により、皮膚上層部と深部を接着する役割を果たしている7型コラーゲンが体内で生成されないローダーのケースでは、遺伝子療法によって、症状を治療できる新たな治療方法がある。
血友病や失明等の遺伝疾患の治療法で、遺伝子療法が開発されている。主な課題は、それぞれの症例で、補正された遺伝物質を体の適切な所に戻すことだ。
ユタ州在住のローダーは、この治療法の筆頭研究者であるスタンフォード大学のジーン・タング准教授(皮膚科)の遺伝子療法試験(遺伝子療法試験の初期成果は11月に報告された)に参加するため、カリフォルニア州に出向いた。
タング准教授の研究チームは、ローダーの皮膚に2つの小さなパンチ穴を開け、細胞を抽出した。ウイルスで補正された7型コラーゲン遺伝子を導入されたローダーの皮膚細胞は数カ月間実験室内で保管され、6つの小さなシート状に培養されたローダーの皮膚細胞を皮膚に移植された。
皮膚を移植した場所に包帯が巻かれた状態で、ローダーは病床で一週間過ごした。包帯がはがされた時、赤いうろこのような水膨れのあった場所にはすでに健康な皮膚が形成され始めていた、とローダーはいう。奇病と戦うバイオテクノロジー企業アベオナ・セラピューティックスは、スタンフォード大学からこの治療方法の実施権を取得した。
タング准教授はこれまで6人の成人患者を治療したが、移植した皮膚細胞は人体から自然に剥がれ落ちるため、治療の効果は約1年しか持続しない。タング准教授の研究チームは、今後十代の若者で治験し、いずれは皮膚疾患のある子どもを対象にする。皮膚に疾患のある人は持続的皮膚感染のため、皮膚がんを患い若くして亡くなることが多い。
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- エミリー マリン [Emily Mullin]米国版
- ピッツバーグを拠点にバイオテクノロジー関連を取材するフリーランス・ジャーナリスト。2018年までMITテクノロジーレビューの医学生物学担当編集者を務めた。