KADOKAWA Technology Review
×
気候変動対策としての
「植林」推進が危ない
これだけの理由
Photo by Casey Horner on Unsplash
気候変動/エネルギー 無料会員限定
Tree planting is a great idea—that could become a dangerous climate distraction

気候変動対策としての
「植林」推進が危ない
これだけの理由

「植林」による森林再生は一見すると分かりやすい気候変動対策だ。だが、地球温暖化に対抗するための二酸化炭素排出量の削減策となるものではない。むしろ、大気中に放出される二酸化炭素を削減するという、より根本的な対策から目を逸らさせる危険すらある。 by James Temple2020.02.07

「1兆本の植林イニシアティブ(Trillion Tree initiativ)」への参加表明は、世界のエリートたちにとって、世界経済フォーラム(WEF)に参加するための新たな入場料となった。実際、2020年1月のWEFの年次総会であるダボス会議において植林は、野生チンパンジー研究の第一人者であるジェーン・グドール博士とドナルド・トランプ大統領が足並みを揃えることができた珍しい議題だった。

一方、共和党のブルース・ウェスターマン下院議員(アーカンソー州選出)が植林の国家目標を設定する法案「1兆本植林法(Trillion Trees Act)」に取り組んでいることが1月21日、Webメディアのアクシオス(Axios)に掲載された(文字通りの1兆本の植林が実現されないであろうことは明らかで、ほぼ確実に不可能だ)。

植林に注目が集まっているのは素晴らしいことだ。各国はできるだけ多くの樹木を植えて保護することで、大気から二酸化炭素を吸収し、動物に生息地を提供し、脆弱な生態系を回復する必要がある。

米ローレンス・リバモア国立研究所で二酸化炭素除去研究プログラムの「カーボン・イニシアティブ(Carbon Initiative)」を率いるロジャー・エインズ博士は、「植林は目に見えやすく、社会的に取り組みやすい有力な解決策です」と語る。

しかし、植林は気候変動に対処するという観点からは、信頼性が低く、効果が限定的な手段でもある。森林再生の取り組みのこれまでの実績はひどいものだ。何十年もかけて膨大な数の樹木を植えて保護しても、世界的な二酸化炭素排出量のほんの一部を相殺できるに過ぎない。干ばつ、山火事、病気、または他の地域での森林伐採によって、長年の努力が無駄になる可能性もある。

最大のリスクはおそらく、植林という言葉が醸し出す自然な響きに惑わされ、私たちが実際よりも有意義な行動を取っていると思い込んでしまう点にある。アリゾナ州立大学未来社会イノベーション学部の非常勤職員、ジェーン・フリーガルは、温室効果ガスがそもそも大気中に排出されるのを防ぐために必要な抜本的な変革の「代替策として植林がとらえられてしまう事態を招きます」と言う。

気候変動との戦いにおいて植林が果たせる役割をしっかり考えると、考慮すべき問題がいくつかある。

時間

旅行予約アプリ「ホッパー(Hopper)」が先日、ユーザーが同サービスでフライトを1本予約するごとに、4本の樹木を植える資金を寄付すると発表した。

ホッパーは、1本の樹木が隔離できる平均的な二酸化炭素の量は1トン弱であり、同アプリで購入する平均的なフライト1本における乗客1人あたりの二酸化炭素排出量とほぼ同じだと推定している。ただし問題は、樹木の成長に約40年かかることだ。同社は4本の樹木の種の多様性や、気候条件、その他の要因を考えると、各フライトから排出される二酸化炭素の量を相殺するには一般に約25年かかると見積もっている。

問題は、このようなカーボン・オフセット・プログラム(炭素相殺)がカーボン・ニュートラル(炭素中立)に直結する取り組みであると誤解を招くことだ。現在、排出量を急減する …

こちらは会員限定の記事です。
メールアドレスの登録で続きを読めます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る