MRIスキャンの画像から脳年齢を3秒で判定する深層学習機械
MRIスキャンによる脳年齢の判定には時間がかかったが、人工知能(AI)が数秒で判定してくれれば、医師の診断はより正確になる可能性がある。 by Emerging Technology from the arXiv2016.12.13
人間の認知能力は年齢とともに低下する。神経科学者は以前から、低下は脳の解剖学的な変化とも関係があると知っており、脳のMRI画像で老化の兆候を見分け「脳年齢」を判定できるようになったといわれても驚きはしない。脳年齢と実年齢の違いから、認知症などの疾患の発症がわかることもある。
だが、機械で年齢を測定するには、前処理として、画像から頭蓋骨など脳以外の組織を除去したり、白質、灰白質等の組織を分類したり、画像アーチファクト除去といったさまざまなデータ平滑化手法により、MRIデータに高度な処理を施す必要があり、分析には非常に長い時間がかかる。
すべてのデータ処理には24時間以上かかることもあり、医師が臨床診断で患者の脳年齢も考慮したくてもできなかった。
12月12日、キングス・カレッジ・ロンドンのジョバニ・モンタナ教授の研究チームがMRIスキャナーの生データで脳年齢を測定するよう深層学習機械を訓練したおかげで、この状況は変わりつつある。深層学習による手法は数秒しかかからず、患者がスキャナーに入っている間にも臨床医は正確な脳年齢を把握できる。
使われたのは、典型的な深層学習の手法だ。研究チームは18歳から90歳の健康な2000人以上のMRI脳スキャンを使って機械を訓練した。脳年齢に影響するような神経学的な症状を持つ人は誰も含まれていないで、脳年齢は実年齢と一致しているはずだ。
使ったスキャン画像は、ほとんどのMRI装置が生成する種類の標準的なT1強調画像だ。各々のスキャン画像には患者の実年齢が添えられる。
研究チームは画像の80%を使って畳み込みニューラルネットワークを訓練し、脳スキャンからその人の年齢を判定した。研究チームはさらに200枚の画像で処理を検証し、最後に、ニューラルネットワークにまだ見せていない200枚の画像を与え、どれだけ正確に脳年齢を測定できるか判定する試験をした。
同時に、研究チームは深層学習手法を従来の脳年齢判定の方法と比較した。そのため大がかりな画像処理で脳の白質と灰白質などを特定し、続いてガウス過程回帰という統計分析をする必要があった。
結果から興味深いことがわかった。分析するデータを前処理して与えた場合、深層学習とガウス過程回帰はどちらも正確に患者の実年齢を判定する。両手法とも誤差はプラスマイナス5年以内だ。
しかし、MRIの生データを分析すると、深層学習は明らかな優位性を見せ、前処理済みデータの時と同様に、平均誤差4.66年で正しい年齢が得られた。対照的に、ガウス過程回帰による標準手法は成績が悪く、平均誤差が12年に近い雑な年齢しか得られなかった。
さらに深層学習による分析はわずか2〜3秒しかかからないが、標準手法は前処理に24時間かかる。深層学習機械に必要なデータ処理は、画像間で画像の向きとボクセル(三次元での最小単位⇔ピクセルは二次元の最小単位)寸法の一貫性を保つことだけだ。
「ソフトウェアが正しく実装されれば、患者がスキャナーに入っている間にも脳から推定した年齢データを臨床医が見られるようになる」と研究チームがいうとおり、この成果は、医師に重要な意味がある。
研究チームは異なるスキャナーで撮影した画像を比較し、この手法が世界各地の異なる装置で撮影したスキャン画像にも使えることを示した。研究チームは双子の脳年齢も比較し、脳年齢がどの程度遺伝的要因に関係しているかを示した。興味深いことに、この相関は年齢とともに低下し、時間が経つほど環境要因の重要度が増すらしく、将来有望な研究の方向を示している。
目覚ましい成果だ。臨床医が診断を下す方法に大きな影響を与える可能性がある。糖尿病、統合失調症、外傷性脳損傷のような疾患が急速な脳の老化に関係しているのは無視できない証拠があり、脳の老化を迅速かつ正確に測定する方法は、臨床医が将来これらの疾患に対処する方法を大きく変えるかもしれない。
「脳から推定した年齢は、正確で、信頼性が非常に高く、遺伝的に根拠のある表現型を表すもので、脳の老化の生体指標として使える可能性がある」
参照:arxiv.org/abs/1612.02572:深層学習による原画像データからの脳年齢の推定で、信頼性が高く遺伝要因を表す生体指標が得られる
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