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 MITメディアラボの伊藤穰一所長が辞任
Phillip Faraone / Stringer / Getty
Joi Ito, director of MIT Media Lab, resigns over ties to Jeffrey Epstein

MITメディアラボの伊藤穰一所長が辞任

MITメディアラボの伊藤穰一所長が9月7日、辞任を発表した。 by Gideon Lichfield2019.09.09

未成年者への性的搾取の疑いがある投資家ジェフリー・エプスタインとの関係をめぐって、MITメディアラボの伊藤穰一所長が辞任した。MITメディアラボに留まり、「修復治療」プロセスを開始する意向を発表したわずか数日後のことだった。 ニューヨーカー紙ニューヨーク・タイムズ紙が、エプスタインとの関係は伊藤所長が以前認めたよりも広範かつ秘密裏なものだったことを批判してから1日と経たないうちに、辞任は発表された。

2011年からその名誉ある研究組織を率いていた伊藤所長は8月15日、長年に渡ってエプスタインから研究資金を調達していたことを謝罪し、大学の完全なサポートがあったうえでの行為だったと述べた。だが、 ニューヨーカー紙 ニューヨーク・タイムズ紙はメディアラボで働く内部告発者からの情報を基に、伊藤所長が以前明らかにしたよりもはるかに多くの資金をエプスタインから調達しており、さらにエプスタインはマサチューセッツ工科大学(MIT)によって「不適格な」寄付者として登録されていたにも関わらず、メディアラボがエプスタインとより広範な関係を持っていたことを隠蔽していたと報じた。

エプスタインは2008年に買春目的のために未成年の少女を人身取引したとして有罪判決を受けた。2018年、地元紙マイアミ・ヘラルド紙による調査報道によって事件は再捜査となり、より広範な性的暴行と性的人身取引に関係していたことことが明らかになった。7月、エプスタインは性的目的の人身取引容疑で再逮捕された。そして8月、拘置所で自殺した。

エプスタインの資金をメディアラボが受け取っていたことを最初に発表した後、伊藤所長にはテクノロジー・コミュニティの著名人たちから支援辞任を求める声の両方が向けられた。新たな事実の発覚は、当初から支援を表明していた人々にいくらかの衝撃を与え、少なくとも1人は公に謝罪した。

私はそのニュースに翻弄され、まだ咀嚼しているところです。他の誰かの書いた手紙に署名するのではなく、先週、自分の考えを書き上げてしまえばよかったと残念に思っています。もちろん、どんなものを書いていたとしても、いまになれば再検討するかもしれませんが。

— Jonathan Zittrain(@ zittrain) 2019年9月7日

9月4日に開かれたメディアラボの内部会議で伊藤所長は、メディアラボが52万5000ドルを、自身のプライベートファンドが120万ドルをエプスタインから受け取っていたことを認めた。だが、9月6日付のニューヨーカー紙の記事によれば、エプスタインの仲介で2人の寄付者(投資家のレオン・ブラックとビル・ゲイツ)から少なくとも750万ドルがメディアラボに流れていたという(ゲイツのスポークスマンは、「エプスタインがゲイツの組織的なまたは個人的な助成金を監督していたという主張は完全に間違っている」と述べている)。MITによって調べられ、阻止されることを防ぐため、伊藤所長とスタッフは資金提供者からエプスタインの名前を伏せるべく組織的に動いていた、という。

メディアラボの元開発アソシエイトであるシグネ・スウェンソンがニューヨーカー紙およびニューヨーク・タイムズ紙に提供したメールによれば、ピーター・コーエン元開発部長と伊藤所長は、エプスタインからの資金は匿名にする必要があると認識していた。スウェンソンは、ニューヨーカー紙に対して、エプスタインとのメディアラボの関係に不快感を繰り返し訴えていたが、「とにかくやるという計画なのだ」と言われた、と述べている。

自身の謝罪発表の中で、伊藤所長は「エプスタインがやったと非難されている恐ろしい行為の証拠を自分は目にしたことはない」とも述べていた。だが、2015年、エプスタインがメディアラボを訪れた際には、モデルのような2人の若い女性を連れていた、とスウェンソンはニューヨーカー紙に証言した。スウェンソンによると、伊藤所長はエプスタインが同行を希望していることを認識しており、エプスタインは「2人の女性の「助手」なしではどの部屋にも入らない」とコーエン元部長に語っていたという。伊藤所長は、ニューヨーカー紙による報道は「事実の誤りだらけだ」と述べたが、詳細はそれ以上説明しなかった。

新たになった事実は、特に伊藤所長とコーエン元部長にとって辛辣なものだが、エプスタインの資金調達を取り巻く組織的な問題も浮き彫りにしている。ニューヨーカー紙によると、エプスタインとの隠された関係はメディアラボでは広く知られていたため、伊藤所長のオフィスのスタッフはエプスタインを「名前を言ってはいけないあの人」や「ヴォルデモート」などと呼び始めていたという。資金調達をMITによる調査からどのように回避したかについても疑問が残る。ラファエル・レイフ学長による8月の声明によれば、「贈与に関する決定は、長年のMITのプロセスとポリシーが適用される」という。

詳細が明らかになり、改めて明確になったのは、エプスタインの事件以来、メディアラボやそのほかのテクノロジー・コミュニティの多くの研究者が強調してきたことだ。すなわち、この件は極端な例ではあるものの、学術機関と寄付者のエリートネットワークとの緊密な関係には透明性が欠如していることを象徴している。

9月7日、MIT全体に宛てた電子メールで、レイフ学長は伊藤所長の辞任を発表し、独立した調査の実施を「著名な法律事務所」に依頼するよう法務顧問に指示したと述べた。先月発表された、MITの資金調達プロセスとポリシーに関する内部調査は、まだ進行中である。

伊藤所長、コーエン元部長、MITに対してコメントを求めたが、執筆時点では返答は得られなかった。

開示情報:伊藤穰一氏はMITテクノロジーレビュー(米国法人)の取締役を兼務していた。MITの関連職を辞職した後、テクノロジーレビューの取締役も辞任している。

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ギデオン・リッチフィールド [Gideon Lichfield]米国版 編集長
MITテクノロジーレビュー[米国版]編集長。科学とテクノロジーは私の初恋の相手であり、ジャーナリストとしての最初の担当分野でもありましたが、ここ20年近くは他の分野に携わってきました。まずエコノミスト誌でラテンアメリカ、旧ソ連、イスラエル・パレスチナ関係を担当し、その後ニューヨークでデジタルメディアを扱い、21世紀のビジネスニュースを取り上げるWebメディア「クオーツ(Quartz)」の立ち上げにも携わりました。世界の機能不全を目の当たりにしてきて、より良い世の中を作るためにどのようにテクノロジーを利用できるか、また時にそれがなぜ悪い結果を招いてしまうのかについても常に興味を持っています。私の使命は、MITテクノロジーレビューが、エマージングテクノロジーやその影響、またそうした影響を生み出す人間の選択を模索するための、主導的な声になることです。
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