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「遺伝子療法は高すぎる」海賊版を作ったバイオハッカーの言い分
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Biohackers are pirating a cheap version of a million-dollar gene therapy

「遺伝子療法は高すぎる」海賊版を作ったバイオハッカーの言い分

特定の研究機関に所属しないバイオハッカーたちのグループが、1回100万ドルもする遺伝子療法「グリベラ」の廉価な海賊版を試作したことを発表した。グループは遺伝子療法が高価であることを理由にしているが、知的財産の問題や治療のリスクが物議を醸している。 by Alex Pearlman2019.09.09

バイオハッカーたちによる国際グループが、100万ドルもする遺伝子療法の廉価なコピー製品を作っているという。彼らはその試みを説明する上で、新しく開発された医薬品がとてつもなく高額であることを引き合いに出している。

彼らがコピーしているのは、世界で最も高価な医薬品であった遺伝子療法「グリベラ(Glybera)」である。2015年にヨーロッパで発売された当時、1回の治療につき100万ドルという価格がつけられた。グリベラは、遺伝性疾患の治療用として初めて承認された遺伝子療法だ。

そして今、研究機関に属さない独立系研究者やアマチュアの生物学者のグループが、グリベラをよりシンプルで安価にした改変版の試作品を作成したと主張している。今後、大学や企業に所属する科学者たちに、試作品の検査、改良、そして動物実験を依頼するつもりだという。

同グループによれば、ラスベガスで8月末に開催される「バイオハック・ザ・プラネット(Biohack the Planet)」で資料の共有を始めるとともに、自分たちの活動の説明をするという(本記事の原文は8月30日に公開された)。このカンファレンスは市民科学者、ジャーナリスト、研究者らを招いて2日間にわたって開催され、ボディ・インプラント(埋め込み型デバイスによる身体改造)、バイオセーフティ(生物学的安全性)、幻覚剤などについての発表がある。

「これはミシシッピの物置小屋、フロリダの倉庫、インディアナの寝室、オーストリアのコンピューターで開発されたんです」。こう話すのは、インディアナ州サウスベンドに拠点を置くバイオハッカー、ガブリエル・リチーナだ。リチーナによれば、この遺伝子療法の試作品を作成するのに7000ドルもかからなかったという。

このバイオハック計画について説明を受けた専門家の意見は割れた。見当違いでうまくいきそうにない計画だという人々もいる。一方、遺伝子療法の費用が極端に高いことで、患者には選択肢が与えられないままになっており、遺伝学的ブレークスルーの海賊版を作る動機もそこから生じたのだとの意見もある。

「バイオハッカーたちが遺伝子療法に目を向け始めているという現象はかなり重要です。潜在的な影響はかなり大きいものになり得るからです」。そう話すのは、セントルイス・ワシントン大学法学部の准教授で、医薬品の価格設定を専門とするレイチェル・サックスだ。「バイオハッカーたちは、自分は患者コミュニティの利益にかなう活動をしていると考えているのかもしれません」。

スイスの製薬企業であるノバルティス(Novartis)は今年、新たな遺伝子療法である「ゾルゲンスマ(Zolgesma)」を発売した。脊髄性筋萎縮症に対するもので、210万ドルの価格がつけられている。この価格のため、一部の親たちは子どもに治療を受けさせようと必死に奮闘している。世界の大部分でこの治療法が使えるようになる可能性は低いだろう。

現状を変える

バイオハッカーたちがコピー品を作っていると主張している遺伝子療法であるグリベラは、非常に希少な血液の疾患、リポタンパク質リパーゼ欠損症を有する人々の治療用に承認された。しかし、費用対効果が証明されず、製造元のユニキュア(UniQure)は2017年に市場から引きあげてしまった。現在までの間に、グリベラでの治療を保険適用として支払ったことが知られている保険会社は、ドイツの1社のみである。

オーストリアのリンツに住む生物工学者・環境エンジニア、アンドレアス・シュテュルマーは、この治療法のリバースエンジニアリング〔他社製品の原理や構造を分析し、独自製品の開発に応用すること〕を思いつき、その考えをリチーナに持ち込んだという。彼らの共同計画はフェイスブックのメッセージやスカイプでの通話を通じて実施され、ミシシッピのバイオハッカー、デイビド・イーシーの助けも得ながら進められた。

近年、遺伝子療法が模倣された別の例としては、2018 …

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