KADOKAWA Technology Review
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「生殖」の不平等
卵子凍結は人類史上不変の
問題を解決できるか
AMRITA MARINO
生物工学/医療 Insider Online限定
One mother’s nail-biting journey from egg-freezing to parenthood

「生殖」の不平等
卵子凍結は人類史上不変の
問題を解決できるか

平均寿命が延び、女性の社会進出が進んだにも関わらず、女性の生殖寿命は変わらないままだ。米国では「卵子凍結」する女性が増え、福利厚生の一環として費用を負担する企業もある。女性の生殖寿命を延ばすことができるのだろうか? by Bonnie Rochman2019.12.11

ミシェル・ハリソンは、40歳になったとき、もっと大きいマンションを買うためにニューヨーク市のマンションを売ることにした。ハリソンは独身だったので、自分のキャリアに人生を捧げていた。広告代理店とESPNのマーケティング部門で夜遅くまで働き、出張であちこち飛び回っていた。だからマンションを購入することができたのだ。

マンションを売りに出している間、郊外に住むおばの元に一時的に引っ越したハリソンは、青々とした芝生と、一息つける空間の素晴らしさに気づき始めた。ハリソンは仕事を辞め、大都会でキャリアを突き進む生活と引き換えに、限りなく広いコロラドの全景を手に入れたのだ。

新しい生活での最初の任務の1つは婦人科の定期検診だったが、この頃ハリソンは41歳になっていた。診察時、医師は単刀直入に訪ねてきた。「赤ちゃんは欲しいですか?」

「私は『さっぱりわからない』という感じでした」とハリソンは言う。「ショックでした。というのも、私はそれまで自分のキャリアに集中し過ぎていたので、出産や自分の年齢について真剣に考えたことがなかったのだと思います」。

医師は、高齢女性の妊娠の成功で定評のあるコロラド生殖医学センター(Colorado Center for Reproductive Medicine - CCRM)をハリソンに紹介した。生殖能力に関して言えば、35歳が医学で言うところの「高齢出産(AMA)」への転換点だ。誰しも、転換点を自由に決めることはできない。米国産科婦人科学会によれば、女性の生殖能力は32歳あたりで衰え始め、37歳までに急降下していく。

「卵子を凍結したいのなら、今こそがチャンスです」。そう告げられたハリソンは、近年増え続ける、生体時計を遅らせようとする女性の一人になった。卵子凍結に踏み切る米国人女性の数は、2009年には500人未満だったのに対し、2016年には7000人を超えている。

「『チャンスを逃さないように、とにかく保険としてやってみよう』と思ったのです」とハリソンは語る。

保証なし

実際、チャンスはすでに逃げかかっていた。不妊治療の専門家は、卵子凍結保存を望む女性には、卵子の数が十分にある20代後半から30代前半の間に卵子凍結するよう勧めている。妊娠中期の女の子の胎児の卵巣には、左右それぞれ300万個の卵子がある。それが出生時には50万個に減少し、思春期までには15万個にまで減少するのだ。更年期になると卵子はほとんど残っておらず、残っている卵子の多くは、老化によって遺伝子が問題だらけになっている。DNAの損傷が多ければ多いほど、卵子や胚は流産や染色体異常、完全な不妊を引き起こしやすくなる。

女児が使い切れないほどの数の卵子を持って生まれる理由は明らかになっていない。また、遺伝子が一因ではあるようだが、年を重ねるごとに卵子の数が急減する理由についても未解明だ。確かなのは、確実に生殖可能な期間を延長させる方法を考えついた者は誰もいないということである。

卵子凍結は、生殖期間の延長にもっとも近い技術であろう。通常の月経周期で複数の卵子を放出できるよう、女性の卵巣をホルモン注射で過剰刺激する。すぐに終わる外科手術で、針を挿入してこれらの卵子を採取する。そして、氷晶の形成を防ぐように考案された「ガラス化保存法」と呼ばれる手法で、卵子を一つひとつ瞬間凍結し、解凍される時まで液体窒素に浸す。これで冷凍ベビーの完成だ。

2012年、米国生殖医学会(ASRM)による卵子凍結はもう「実験」段階ではないとの発表は、女性のエンパワーメントの時代の到来を告げたかのように見えた。もはや、女性はキャリアのために親になる機会を犠牲にする必要がなくなったのだ。たとえ子育てのために出世コースを脱線するリスクがあろうとも、能力が認められるまでの間は卵子を凍結保存しておくことができるので、仕事での出世から妊娠・出産までの全てを手に入れられるようになった。また、結婚相手となかなか巡り合えない場合でも、理想のパートナーを探し続ける間に卵子を凍結させておくことができるので、焦る必要はない。

アップルやフェイスブックをはじめとするテック企業が、1サイクルごとに1万ドルかかる卵子凍結の費用を福利厚生として負担するようになったことで、卵子凍結に対する熱狂を煽った。

その後の7年間で、卵子凍結はすっかり主流になった。7月20日にマンハッタンのブライアントパーク付近にいた人は、カインドボディ(KindBody)の移動式不妊治療クリニックを見かけたかもしれない。このクリニックは、屋外の待合室(歩道の上に絨毯を敷き、ソーサーチェアや人が座れる丸形クッションを設置したスペース)のすぐ隣に駐車された、シックなレモンイエローと白の塗装が施されたRV車で、女性が仕事帰りに立ち寄って生殖能力評価を受けることができる。この評価には、卵巣の超音波検査、不妊治療の専門家による診察、「卵巣予備能」(卵巣内に残っている卵胞や卵子の在庫数)の指標となるAMH(抗ミュラー管ホルモン)濃度を測定する血液検査が含まれる。

卵子凍結は、堅実なテクノロジーとは程遠いものの、大いに注目を浴びている。卵子凍結の成功率は判断しにくい。なぜなら、卵子凍結は非常に新しい手法であり、卵子凍結をした女性の多くがいまだ解凍した卵子を使って妊娠を試みていないためだ。既存のデータが示唆するのは、数の勝負だということだ。予想通り、若い年齢のときに凍結保存した卵子が多ければ多いほど、保存した卵子のうち少なくとも1個が妊娠・出産につながる可能性が高くなる。

「卵子凍結をやめなさいと言いたいわけではありません。女性は、最良の選択肢であ …

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