知られざる米国農業の危機、
収穫量「激減」時代が来る
米国の農家はこれまで、気候変動を取るに足らぬものとして無視してきた。だが、数十年続いてきた生産性向上のペースはすでに鈍化している。平均気温上昇がこのまま続けば、トウモロコシや大豆などの収穫量が大きく減少し、世界の食糧事情に深刻な影響を与える可能性がある。 by Adam Piore2019.07.11
3月のある朝、アイオワ州エイムズは厳しい寒さに見舞われた。郊外に広がるトウモロコシ畑は数センチほどの雪と氷に覆われている。だが、アイオワ州立大学のキャンパスにある特別製の栽培室の中は蒸し暑い。
目がくらむほど眩しい光が3つの正方形の栽培箱に当たっている。栽培箱はそれぞれ約3175キログラムの土が入れられ、床を1.5メートルほど掘り下げて埋められている。室内の空気の循環を促し、温度を均一に保つため、ファンが一定速度で回っていて、その音が壁に当たって反響する。数センチごとに設置された赤外線温度計と水分センサーが、植物の葉の周りの微気候を追跡する。
これらの栽培室の中にあるもの、それは未来である。そして、米国農務省の農業環境国立研究所を率いる人当たりの良い作物栽培学研究者、ジェリー・ハットフィールド博士は、ここでの実験結果について憂いを抱いている。
3年前、ハットフィールド博士は栽培室を利用して、この地域における2100年の予想気温の下で、地元の作物がどのように生育するかを調査した。2100年には気温が平均4℃ほど上昇すると予想されている。ハットフィールド博士は、地元の農家が栽培している3種類のトウモロコシを使って、4月1日から10月30日までの栽培シーズンをシミュレートした。1つの栽培室では、4月初めの気候を模倣するためにちょうど10℃ぐらいから始め、その後、夏の暑い日をシミュレートするため、38℃をはるかに上回る温度に上げてから(2100年の気候条件では栽培室の温度は最大45℃ほどになる)、秋の気温に戻した。2番目の栽培室では、この地域で現在、標準的である涼しい気候をシミュレートした。
2つの栽培室の植物の違いは明らかであった。葉の状況はあまり変わらないように見えたが、4℃の平均気温上昇が及ぼす影響は、どれほど悲観的な科学文献の予測も上回るほど酷かった。植物1個体あたりのトウモロコシ穀粒の数が84%も減少する場合があっただけでなく、全く穀粒が実らない植物もあった。
驚くべき結果はこれだけでは終わらなかった。数カ月後にハットフィールド博士と同僚は、早ければ2050年にもカンザス州サライナの小麦畑を襲うことが予想される気温の上昇と降雨パターンの変化をシミュレートした。降水量の減少によって収穫量は30%も減少し、数十年後の状態として予想されているように高温と少雨が組み合わさると、70%も減少することが分かった。
米国の農家にとってこれまで、気候変動を取るに足らぬものとして無視することは比較的簡単であった。結局、最も楽観的なモデルでは、中西部の耕地の75%で栽培されている農産物であるトウモロコシと大豆の米国全体の収穫量は実際、2050年まで増加すると予想されている。比較的涼しい米国北部の地方は、温暖化の恩恵を受けるからである。しかし、ハットフィールド博士が正しければ、その後は、坂を転がり落ちるように生産量が減少し、農家は大きな打撃を受け、世界の多くの地域が食糧不足に悩まされるようになるだろう。
2050年までに、世界の人口は97億人に増加すると予想されている。世界中で生活水準が向上し、食生活が改善していることも考慮すると、気候変動によってサハラ以南のアフリカ諸国や東アジア諸国の食料自給率が下がり、輸入に頼らざるを得なくなる頃には、食糧生産が50%増加していなければならない。米国のトウモロコシと大豆は既に、世界の穀物生産量の17%を占めている。国連の食糧農業機関(FAO)は、食糧不足に対応するためには、米国のトウモロコシ輸出量が2050年までに3倍になる必要があり、米国の大豆輸出量は同時期には50%以上増加しなければならないと予想している。しかも、現在より耕地をそれほど増やさずに、より多くの食糧を生産しなければならない。つまり、作物の生産性を上げる必要があるのだ。
そして、これこそハットフィールド博士が憂いていることなのだ。今後数十年のうちに一般的になるであろう干ばつや大きな気温の変化などの異常気象の下でも植物が順調に生育できるようにする新しい方法が見つからない限り、気候変動に伴って生産量は大幅に減少すると示唆する科学論文が増えている。
「手をこまぬいていたら、コーンベルトとグレートプレーンズの広い地域で生産量が大きく減少するでしょう」とハットフィールド博士は述べる。「生産する作物を変更するか、高温に対する耐性を高めるために植物の遺伝子操作をすることを考える必要があるでしょう」。
ゴルディロックスの終焉
もちろん、このような悲観的予測は聞き覚えがあるだろう。1970年代初め、世界のリーダー達は、人口増加や公害の拡大、食糧価格の上昇などによって21世紀初頭までに深刻な食糧危機が発生することを懸念し、国連がローマで会議を開催した。加盟国は1975年の会議後、「もはや時間がない」と宣言し、「緊急かつ持続的な行動が不可欠である」と述べた。
しかし、その後数年間、高収量作物や灌漑の普及、農業の機械化、化学肥料や農薬の導入などによって「緑の革命」が起こり、世界中の多くの地域で農産物の生産量が飛躍的に増大した。
その成長ペースが現在、 …
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