KADOKAWA Technology Review
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「宇宙への切符」を安くする
5つの計画、5つの失敗
Illustrations by John MacNeill
Five schemes for cheaper space launches—and five cautionary tales

「宇宙への切符」を安くする
5つの計画、5つの失敗

ここ数十年間にわたり、1キロの物体を地球周回軌道に乗せるためのコストは高止まりしていた。だが、再利用可能なロケット「ファルコンヘビー」の登場により、宇宙船の打ち上げコストのより一層の低下と、さらなるイノベーションの兆しが見えてきている。 by Konstantin Kakaes2019.06.28

20世紀後半から21世紀初頭の数十年間、1キログラムの物を打ち上げて地球の周回軌道に到達させるのにかかる平均コストはほとんど変わらなかった。コストは1万ドルから下がる気配をまったく見せず、次々と生まれる新しいアイデアも行き詰まりを打破するには至らなかった。

そのことはイノベーションを妨げてきた。結局のところ、打ち上げに高額の費用がかかるのであれば、他のリスクを冒すことが難しくなる。だが、意見は分かれていた。停滞を招いたのはアイデアを実現に導くのに十分な資金がなかったからなのか。あるいは、たとえば材料科学や自律航法など、他の技術の進歩が不十分だったからなのか。

ここ数年ですべての事情は一変した。新しい宇宙船、とりわけスペースX(Space X)の「ファルコンヘビー(Falcon Heavy)」が行き詰まりを打開したのだ。ファルコンヘビーの1キログラムあたりの打ち上げコストは、競合企業のおよそ10分の1で済む。

現在問われているのは、これが新しい停滞期の始まりなのか、それともイーロン・マスクが望んでいるように、今後の打ち上げコストのさらなる低下と宇宙におけるさらなるイノベーションの兆しなのかということだ。以下に挙げるシステムの成功または失敗は、その問いに対する答えを見つけるヒントになるだろう。

5つの新たな計画

XS-1

1960年代以降、エンジニアは、宇宙船を何度も再利用可能にすることで、宇宙旅行を空の旅のように簡便にすることを夢見てきた。まだ誰もその夢の実現に近づいていない。ペンタゴン(米国防総省)の研究機関である国防高等研究計画局(DARPA)向けにボーイングが製造しているXS-1は、10日間で10回の飛行が可能で、500万ドル以下で最大5000ポンド(2268キログラム)の貨物を地球周回軌道に投入できるという。試験飛行は2020年に予定されている。

スターホッパー(Starhopper)

スターホッパーはスペースXが計画しているビッグ・ファルコン・ロケット(BFR)の1段目の試作機である。スペースXはBFRを利用して人間を火星に送ったり、ニューヨークや上海などの都市を結ぶ30分間の航空シャトルサービスを運航したりすることを計画している。BFRの最大積載量はファルコンヘビーの最大積載量の約3倍だが、イーロン・マスクはBFRの方が建造コストが安くなるだろうと述べている。スターホッパーの初期バージョンは、4月にテキサス州でテザード・ホップ試験(エンジンの地上燃焼試験)を無事に完了している。

ニューグレン(New Glenn)

ニューグレンのロケットは、ファルコンヘビーとほぼ同じ最大積載量だが、直径が7メートルでファルコンヘビーよりはるかに太い。つまり、ニューグレンの使用可能容積は、ファルコンヘビーの2倍である。ニューグレンの1段目は、失敗に終わったバイカル・ブースター(以下を参照)と同様に、地球に帰還して再利用される。このロケットを建造しているブルーオリジン(Blue Origin)は試験飛行の日程について固く口を閉ざしているが、同社は、2022年にも打ち上げが予定されている空軍の契約を巡るコンペに参加している。

テザーズ(Tethers)

ロケットが再利用可能になり、規模の経済が達成されたとしても、燃料が大きなコストを占めることに変わりはない。スタートアップ企業のテザーズ(Tethers)は、2つの異なる方法でそれを変えようとしている。そのうちの1つのアプローチは、ロープを揺らすのと同じ要領で、運動量をテザー(「つなぎ綱」の意)の一方の端から他方の端へ伝える方法だ。同社は、この手法を利用して、地球周回軌道に到達するだけのエネルギーを持っていない人工衛星を「捕捉」し、加速させたいと考えている。もう一つのアプローチは、地球の磁場を利用して、テザーの一端に取り付けた人工衛星を加速させる方法だ。試験飛行がすでに何度か実施されており、次の試験飛行は6月の予定だ。

スピンローンチ(Spinlaunch)

上述したテザーを使えば、すでに宇宙に存在する物体間で運動量を伝えられる。だが、地表から発射する際には、燃料コストを減らすために何ができるだろうか。2018年に4000万ドルのベンチャー資金を調達したスタートアップ企業であるスピンローンチ(Spinlaunch)は、そのための計画を進めている。スピンローンチは5月にニューメキシコの打ち上げ施設の建設に着工しており、最初の人工衛星を2022年に打ち上げる予定だ。同社は強力なタービンと小型のオンボードロケットを利用して、1日最大5基の人工衛星を宇宙空間の入り口まで打ち上げたいと考えている。テザーによるエレベーターとは、ある意味、正反対のアプローチだ。

5つの教訓

デルタ・クリッパー(Delta Clipper:DC-X)

単段式宇宙輸送機(SSTO:single-stage-to-orbit)は長い間ロケット設計者の目標だった。多段式ロケットを回避することによってロケットの打ち上げが安くなり、建造が速くなり、再利用の可能性が高まるからだ。マクドネル・ダグラスが製造した小規模なDC-Xは、数回弾道飛行をしたが、軌道到達能力を持つ本格的なバージョンが建造可能される前に計画が中止された。理由は定かでないが、未熟なテクノロジーかあるいは近視眼的な官僚主義の犠牲になったのだろう。デルタ・クリッパーの数名のエンジニアが、現在ブルーオリジンで働いている。ブルーオリジンのニューシェパード(New Shepard )ロケットはDC-Xに着想を得たと言われている。

ベンチャースター(Venture Star)/X-33

米航空宇宙局(NASA)は、ベンチャースターになるはずだった宇宙船の半分のスケールの弾道飛行バージョンであるX-33に10億ドル以上を費やした。ベンチャースターのサイズはスペースシャトルに匹敵し、NASAはカリフォルニア州のエドワーズ空軍基地に3200万ドルをかけて専用の「宇宙船基地」まで建設した。しかし、NASAとX-33を製造したロッキード・マーチンの間で設計上の意見の食い違いが多かったため、ロケットが一度も飛ばないまま計画は中止された。

バイカル(Baikal)

1990年代にロシアのアンガラ(Angara)ロケットの再利用可能な1段目として設計されたバイカルブースターは、時期尚早のアイデアだった。スペースXのファルコンロケットの1段目と同様に、バイカルは地球に帰還して再利用されるはずだった。だが、離陸に使ったのと同じロケットを使用して着陸するファルコンの1段目と異なり、バイカルは着陸用に別のジェットエンジンを搭載しており、それが重量と複雑さを増大させた。

HL-20/HL-42

1986年にスペースシャトル「チャレンジャー」が爆発したことを受けて、HL-20は宇宙ステーション「フリーダム」へ安全に低コストで人員を輸送するために設計された。HL-20も、それをスケールアップした後継機のHL-42も、宇宙に到達することなく終わった。だが、HL-20の設計を基にしたシエラネバダ(Sierra Nevada)のドリームチェイサー(Dream Chaser)宇宙船が、2020年後半から国際宇宙ステーションとの間の往復を開始し、貨物を運ぶ予定だ。

ロトン(Roron)

これも単段式宇宙輸送機(SSTO:single-stage-to-orbit)のアイデアの失敗例だ。ロータリーロケット(Rotary Rocket)が建造したロトンは、宇宙の開拓者を目指す者への警告と励ましとしてモハーベ空港・宇宙港に置かれている。ロトンのエンジニアは、ロケットを高速で回転させることによって、高価で複雑なポンプを不要にしたいと考えた。試作機が1999年に3回試験飛行をしたが、ロケットを制御することは難しかった。ロータリーロケットは欠陥を解消する前に資金を使い果たした。

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