KADOKAWA Technology Review
×
太陽帆を軌道へ、スペースXがファルコン・ヘビーの打ち上げに成功
Bob O'Connor
SpaceX’s latest Falcon launch has put a solar sail into orbit

太陽帆を軌道へ、スペースXがファルコン・ヘビーの打ち上げに成功

スペースX(Space X)は6月25日、同社製ロケット「ファルコンヘビー」の3度目の打ち上げに成功した。注目は、ペイロードの1つであるキューブサット衛星「スぺーライトセイル2号」だ。 by Charlotte Jee2019.06.26

スペースX(Space X)は東部標準時6月25日午前2時30分(日本時間同16時30分)、「ファルコンヘビー」ロケットをフロリダのケネディ宇宙センターから打ち上げた。今回の打ち上げは、世界最大のロケットであるファルコンヘビーにとって3度目のミッションであり、米国防総省などの顧客から委託された24基の人工衛星を積載している。

そのうちの1基であるキューブサット衛星「ライトセイル2号(LightSail-2)」の巨大な太陽光反射帆は、およそ1週間で展開し、太陽からの光の運動量を捕捉して宇宙船を推進するエネルギーへと変えるだろう。

ファルコンヘビーは、米国航空宇宙局(NASA)から依頼された装置もいくつか運搬している。興味深いのは、宇宙船に搭載されたシステムを利用して針路を決定することを可能にする「深宇宙原子時計」だろう。ファルコンヘビーはまた、宇宙葬を手がける企業セレスティス(Celestis)から依頼された152人分の遺灰も運んでいる。

The Falcon rocket blasts off from Cape Canaveral
ケープ・カナベラルから飛び立つファルコンロケット
AP

だが、このミッションのもっともわくわくする運搬物は、何と言っても「ライトセイル2号」だ。クラウドファンディングによって資金を調達した惑星協会は、衛星打ち上げを10年間も待ちわびてきた。来週のどこかの時点で巨大な太陽光反射帆が広がったとき、元は1970年代にカール・セーガンによって提案されたテクノロジーが実践で使い物になるかどうか、初めて調べるチャンスがやって来るだろう。

ライトセイル2号の目標は、地表から720キロメートルに達した後、1年間に渡って軌道上を周回することだ。地上のエンジニアは反射帆の角度を調整することによって、ちょうどヨットと同じ要領で、ライトセイル2号を操縦できる。だが、ライトセイル2号は風の代わりに、マイラー(ポリエステルの一種)製の反射帆にぶつかってくる光子のエネルギーを使って動く。

An artist's impression of the Lightsail once it's unfurled in orbit
あるアーティストによる、軌道上で広がったライトセイルのイメージ
The Planetary Society

太陽光反射帆は、長きにわたってアーサー・C・クラークやジュール・ヴェルヌをはじめとするSF小説の題材にされてきた。反射帆は、理論上は時間をかければ驚異的なスピードに達することができるため、星間旅行の可能性を秘めたテクノロジーとして論じられてきたのだ。

後味の悪い話もある。スペースXのビジネスモデルの核になっているのは、再利用型ロケットだ。今回の打ち上げでは米国防総省の機器が搭載されている。同省が使用済みロケットでの打ち上げを許可したのはこれが初めてだ。

ファルコンヘビーのツインブースターは無傷でケープ・カナベラルに着陸したものの、中央ブースターはドローン船上への着陸の際にターゲットを見失い、水中で爆発してしまった。ブースターの回収に失敗したのはこれが2度目だが、ブースターがドローン船に戻ってくるスピードが速いため、今回の着陸は極めて困難なものになるだろうとスペースXはあらかじめ宣言していた。

MITテクノロジーレビュー[日本版]は、宇宙ビジネスの可能性をキーパーソンとともに考えるイベント「Future of Society Conference 2019」を11月29日に開催します。詳しくはこちら
人気の記事ランキング
  1. Why handing over total control to AI agents would be a huge mistake 「AIがやりました」 便利すぎるエージェント丸投げが危うい理由
  2. OpenAI has released its first research into how using ChatGPT affects people’s emotional wellbeing チャットGPTとの対話で孤独は深まる? オープンAIとMITが研究
  3. An ancient man’s remains were hacked apart and kept in a garage 切り刻まれた古代人、破壊的発掘から保存重視へと変わる考古学
シャーロット・ジー [Charlotte Jee]米国版 ニュース担当記者
米国版ニュースレター「ザ・ダウンロード(The Download)」を担当。政治、行政、テクノロジー分野での記者経験、テックワールド(Techworld)の編集者を経て、MITテクノロジーレビューへ。 記者活動以外に、テック系イベントにおける多様性を支援するベンチャー企業「ジェネオ(Jeneo)」の経営、定期的な講演やBBCへの出演などの活動も行なっている。
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る