GSKがカリフォルニア大学に資金提供、CRISPR共同研究へ
製薬大手のグラクソ・スミスクライン(GlaxoSmithKline:GSK)は、カリフォルニア大学の新しい研究所に6700万ドルを投じる。目的は、遺伝子編集ツールのクリスパー(CRISPR)を使って新薬開発の手がかりを探すことだ。
よく知られている通り、クリスパーとはDNAを切り取って編集する一種の分子ハサミの名前だ。クリスパーは、遺伝子を編集した植物や動物、それに人間の赤ちゃんに使われてきた。現在グラクソは、あまり話題になっていないクリスパーの別の使用方法に投資しようとしているが、重要度はこちらの方が高いかもしれない。研究室で培養している細胞上でクリスパーを使って2万個ほどのヒト遺伝子すべて(単体または、あらゆる組み合わせ)を微調整し、個々の細胞を観察できるツールで何が起きるのかを観察するというものだ。がんを退治できる特別な組み合わせはあるのか? 深刻な遺伝子欠陥があっても、病気にならない人がいる理由は解明されるのだろうか?
研究所では、クリスパーによるこの新たな評価システムを産業規模にまで拡大する予定だ。グラクソの主任科学者ハル・バロン博士によると、1回の実験で4億個のデータ・ポイントを生成できるという。得られた情報を理解したり、人間の健康記録を含む大規模なバイオバンクから手がかりを得たりするには、機械学習ソフトウェアが必要になるだろう。
これは厄介な問題になる可能性がある。新しい研究所は、カリフォルニア大学バークレー校のジェニファー・ダウドナ教授やサンフランシスコ校のジョナサン・ワイスマン教授といったクリスパーの専門家に加え、24人の大学職員と14人のグラクソ社員で構成される。だが、研究費を負担するのはグラクソだ。研究内容に関する発言権、新たな発見やテクノロジーの特許使用のオプションを持つことになる。
グラクソは今回の取り組みをユニークなものだとしている。しかし現実には、製薬業界が研究開発を学術界に委託する取り組みは珍しいものではなく、ときには問題となっている。1998年、バークレー校とノバルティス(Novartis)の同様のプロジェクトでは騒動が起きた。カリフォルニア大学は、グラクソとの契約内容を明らかにしていない。
「これは見ものになるでしょう」とバークレー校のボブ・ベリング名誉教授(法律学)は話す。契約が結ばれたのは大学が予算の問題を抱えていた時期で、その前にはバークレー校とマサチューセッツ工科大学(MIT)との間でクリスパーの特許を巡る論争もあった。「大きな資金を得ようという考えなのでしょう。今回のようなプロジェクトが大学側の正当な権利や研究の方向性に与える影響について、問われることになると思います」。