KADOKAWA Technology Review
×
【3/14東京開催】若手研究者のキャリアを語り合う無料イベント 参加者募集中
ベゾスの招待制イベントにMITの「AIチップ」開発者が呼ばれた理由
Photographs by Tony Luong
人工知能(AI) Insider Online限定
This chip was demoed at Jeff Bezos’s secretive tech conference. It could be key to the future of AI.

ベゾスの招待制イベントにMITの「AIチップ」開発者が呼ばれた理由

アマゾン創業者のジェフ・ベゾスが主催する招待制カンファレンス「MARS」で紹介されたエッジ向けAIチップは、ロボットやドローンといった他の派手なプレゼンに比べると地味なものだった。だが、電力効率に優れた新しい半導体は、人工知能の未来において重要な存在となる。 by Will Knight2019.05.09

最近、米カリフォルニア州パームスプリングスのまばゆい日差しの中、小さなステージに立ったヴィヴィアン・ジー准教授は、おそらくこれまでのキャリアでもっとも緊張したプレゼンテーションをした。

ジー准教授はプレゼンの内容を知り尽くしていた。マサチューセッツ工科大学(MIT)の自分の研究室で開発しているチップについて話すことになっていたからだ。ほとんどの人工知能(AI)の計算は巨大データセンターで実行されるが、ジー准教授のチップを使えば、データセンター外で使われている使用可能電力に制約のある多数のデバイスで高性能のAIを利用できる。しかしながら、プレゼンをする場所と聴衆が、ジー准教授を緊張させた。

プレゼン会場は、豪華なリゾート地でロボットが散策(または飛行)しながら有名な科学者やSF作家たちと交流する、厳選されたエリートたちが集う招待制カンファレンス「MARS」(Machine learning:機械学習、Automation:オートメーション、Robotics:ロボット、Space:宇宙分野のイノベーションがテーマの会議)だった。技術的な講演をするために招かれた研究者はわずか数人。聴衆に衝撃を与え、かつ啓発するセッションが期待されていた。一方の参加者は世界屈指の研究者、CEO(最高経営責任者)や起業家などおよそ100人。主催者は、会場の最前列に座って聴いていた、ほかならぬアマゾン創業者兼会長のジェフ・ベゾスだった。

「聴衆はかなりの大物揃いだったと言えるでしょう」。ジー准教授は笑いながらそう振り返る。

MARSカンファレンスの他の講演者が紹介したのは、空手チョップを披露するロボットや、静かに羽ばたく不気味な大型昆虫のような無人ドローン。さらには火星植民地の楽観的な青写真まである。それらに比べると、肉眼で見る限り普通の電子機器に搭載されているものと区別がつかないジー准教授のチップは地味に映るかもしれない。だが、このチップは間違いなくMARSで紹介された何よりもはるかに重要なものだ。

新たな能力

ジー准教授の研究室で開発しているような新設計のチップは、MARSで紹介されたドローンやロボットを含めて、AIの今後の進歩に不可欠なものになる可能性がある。これまで、AIソフトウェアは主にグラフィックチップ(GPU:画像処理装置)上で動作していた。だが、新しいハードウェアによってAIアルゴリズムがより強力になり、新たな応用への扉が開かれる可能性がある。新設計のAIチップは、倉庫ロボットを普及させたり、スマホ上に写真並みにリアルな拡張現実(AR)画像を表示できるようにしたりするかもしれない。

ジー准教授のチップは、非常に高い効率性と柔軟性を併せ持つ設計となっている。こうした特徴は、急速に進化している分野にとって欠かせない性質だ。

ジー准教授のマイクロチップは、すでに世間を大騒ぎさせている「深層学習」AIアルゴリズムを最大限に活用するために設計されている。その過程で、マイクロチップが深層学習AIアルゴリズム自体を進化させるかもしれない。「ムーアの法則が減速している中、新しいチップが必要とされています」とジー准教授はいう。ムーアの法則とはインテルの共同創業者であるゴードン・ムーアが考案した経験則であり、チップ上のトランジスター数がおよそ18か月ごとに倍増し、それに合わせてコンピューター性能が向上するというものだ。

ムーアの法則は、工業部品が原子のスケールに達 …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. AI crawler wars threaten to make the web more closed for everyone 失われるWebの多様性——AIクローラー戦争が始まった
  2. Promotion Innovators Under 35 Japan × CROSS U 好評につき第2弾!研究者のキャリアを考える無料イベント【3/14】
  3. OpenAI releases its new o3-mini reasoning model for free オープンAI、推論モデル「o3-mini」を無料提供
  4. Inside the race to archive the US government’s websites 米政府系サイトが続々閉鎖、 科学者らが緊急保存作戦
▼Promotion
U35イノベーターと考える 研究者のキャリア戦略 vol.2
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2025年版

本当に長期的に重要となるものは何か?これは、毎年このリストを作成する際に私たちが取り組む問いである。未来を完全に見通すことはできないが、これらの技術が今後何十年にもわたって世界に大きな影響を与えると私たちは予測している。

特集ページへ
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を発信する。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る