脳内インプラントの無線制御で、下肢が麻痺したサルが歩けた
脊髄損傷を電子機器で治療する第一歩。 by Courtney Humphries2016.11.10
スイス連邦工科大学ローザンヌ校(EPFL)による研究で、サルの脳と後肢間の無線ブリッジにより、たどたどしい足取りではあるが、下肢が麻痺した2匹のサルが、脳インプラントの制御で、トレッドミル(踏み車)に沿って前進できるようになった。麻痺を電子治療で治す第一歩だ。
11月9日、ネイチャー誌で発表された研究によれば、動物の歩く意志を感知する脳内インプラントと、歩くための筋肉を刺激する脊髄下部につながれた電極、このふたつの無線接続という、3つのテクノロジーを融合した成果だ。
「これらふたつをつなげると証明したのは素晴らしいことです」とファインスタイン医学研究所(ニューヨーク)のバイオエレクトロニック医学センターのチャド・ボートン所長はいう。ボートン所長は最近、人間の志願者と協力し、電極を仕込んだスリーブにより、脳の信号で麻痺した手の制御を研究中だ。また、患者が脳でロボットを制御できることを証明する等の研究もしている。
新しい研究では、動物の歩行能力を回復するために無線脳制御を確立した初めてのケースだろう。この研究は「完全にインプラント可能な、外見からはわからない」システムを開発する計画の一部で、麻痺患者が、体の動きを意思通りの制御できるようになるとボートン所長はいう。
実験はグレゴワール・クルティーヌ主任研究員が率いる国際的チームによって実施された。クルティーヌ主任研究員は硬膜外電気刺激や、歩行動作を誘発するために脊髄下部に電気を流す手法を専門とする神経科学者だ。
腕の動作とは違って、歩行は脊髄によって脳とは部分的に独立して動作が調整される、自動的な動作だ。研究チームは、脊柱を刺激することで麻痺したネズミを歩けることを以前実証した。しかしその時は、研究者は動物の後ろ足を制御する操り人形師のようだった。
研究チームは、その後「動物の脳に歩行を制御させる」という次のステップにどう進んだかを説明した。
研究チームはまず、2匹のアカゲザルの片足を一時的に麻痺させるように脊髄の片側を損傷させた。それから、脳の、脚の動きを指示する部分のニューロンの電気的活動を記録できる、画鋲ほどのサイズの電極をアカゲザルの脳に外科的に埋め込んだ。
ブラウン大学で開発された、頭蓋骨に取り付ける無線送信機で、脳の信号を猿が着ている特別なジャケットに伝達した。もし猿が「歩こう」とすれば、ジャケットが脊髄下部に事前にプログラムされた一連の電気的刺激を引き起こす。
システムの助けなしでは、サルは怪我をした方の脚をぶらぶらさせたままトレッドミルに沿って飛び跳ねていた。しかしシステムがオンになった途端、サルは脚を持ち上げ、下ろし、また体重をかけはじめたのだ。
クルティーヌ主任研究員はEPFLのスピンオフ会社(G-セラピューティクス)の創業者で、4000万ドルの資金を集め、脊髄刺激テクノロジー(脳インプラントとは融合していない)を開発している。
ローザンヌ大学付属病院神経外科のジョセリン・ブロッホ医師(会社の共同創業者)と協力し、G-セラピューティクスはリハビリプログラムの一部として、8人の志願者とともに脊柱刺激を試験中だ。クルティーヌ主任研究員は「次のステップのひとつ」は、患者がシステムを直接的に脳で制御できるようにすることで、実験を5年以内に実行しようとしている。
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- コートニー ハンフリーズ [Courtney Humphries]米国版 契約編集者
- コートニー ハンフリーズは、MIT Technology Reviewの契約編集者で、生物学や健康、文化について、ボストングローブ紙やサイエンス誌、ネイチャー誌、ワイアード誌、ニュー・サイエンティスト誌、さまざまな刊行物でフリーランス・ライターをしています。『スーパードーブ:鳩はどのようにマンハッタンから世界を征したか』(スミソニアン・ブックス刊、未邦訳)の著者です。