「猿の惑星」への扉を開く?
MCPH1遺伝子を移植、
中国で「賢いサル」誕生か
人間の知性を形成する役割を担っている可能性のある遺伝子を加えた「遺伝子組み換えサル」を中国の研究チームが作り出した。霊長類から枝分かれして急速に発達した人間の脳の進化の謎を解くためとしているが、倫理上の問題を指摘する声もある。 by Antonio Regalado2019.04.15
人間の知性は、進化がもたらした極めて重大な発明の1つだ。何百万年も前に始まったスプリントの結果、人類はより大きな脳と新しい能力の数々を持つことになった。やがて人類は、直立し、すきを手に取り、文明を創り出した。その一方で、霊長類の他の仲間たちは、木々の中で変わらず暮らし続けた。
中国南部の科学者がいま、この進化の溝を狭めようとしている。人間の知性を形成する役割を担っていると思われるヒト遺伝子のコピーを導入した、遺伝子組み換えマカクザルを作ったという。
この研究を主導した昆明動物研究所の遺伝学者のビン・スー博士は、「遺伝子組み換えのサルを使って人間の認知の進化を理解する初の試み」と説明する。
スー博士らの研究結果によると、遺伝子組み換えサルは、色とブロックの絵を使った記憶力テストでより良い成績を残し、その脳は人間の子どもと同様に、発達により長い時間を要したという。脳の大きさに違いは見られかった。
この実験は、3月27日に北京の科学雑誌『ナショナル・サイエンス・レビュー』に掲載され、中国のメディアによって最初に報道された。ただし、人間の心の謎や、賢い霊長類の突然の進化の理由を解明するにはほど遠いようだ。
それどころか、欧米の科学者(研究に協力した科学者もいる)は、この実験は無謀であり、霊長類に対する遺伝子改変について倫理面での疑問を呈した。霊長類の遺伝子改変は、中国が技術的な優位に立っている分野だ。
コロラド大学で霊長類の比較研究をしている遺伝学者、ジェームズ・シケラ教授は、「遺伝子組み換えサルを使用して、脳の進化に結びつくようなヒト遺伝子を研究するのは、非常に危険な道です」と語る。シケラ教授は、今回の実験が動物への軽視や、より極端な遺伝子改変へ進むことを危惧している。「典型的な危険な道のりであり、この類の研究を進める時に立ち返って考えなければならない問題です」。
欧州や米国で霊長類を使った研究をするのは難しくなってきている。一方で、中国は、最先端技術を用いたDNAツールの動物への適用を急スピードで進めてきた。中国は、遺伝子編集ツール「クリスパー(CRISPR)」を用いて遺伝子を改変したサルを初めて作った国である。また、2019年1月、中国のある研究機関は、深刻な精神障害を持つ6匹のサルのクローンを作ったと発表した。
シケラ教授は、「この分野でこうしたやり方の研究がまかり通っているのは問題です」という。
進化の物語
昆明動物研究所の研究者であるスー博士は、「ダーウィンの自然淘汰説」の痕跡の研究を専門としている。自然淘汰説とは、自然界に広がっている遺伝子はそれらが成功しているからだという説だ。スー博士の研究テーマは、ヒマラヤのヤクの高地に対する順応から、寒い冬に反応するヒトの肌の色の進化といったものにまで及ぶ。
しかし、何より最大の謎は知性である。現在分かっているのは、私たち人間に似た祖先の脳の大きさと能力が急速に成長したということである。この変化をもたらした遺伝子を見つ …
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