患者にとって、病院の集中治療室(ICU)は恐ろしい場所になることもある。それには理由がある。米国では、ICUは病院のどの部門と比較しても死亡率が高く、8%〜19%。合計すると年間約50万人が死亡している場所だからだ。ICUでは死亡しなくても、長期の肉体的あるいは精神的な障害など別の方法で苦しむ可能性もある。24時間体制での看護が必要とされるICUでの勤務は、看護師に肉体的にも感情的にも持久力を要求する。そのため、ICUで勤務する看護師は簡単に燃え尽きてしまうことも多い。
ネイチャー・デジタル・メディシン(Nature Digital Medicine)に2019年3月に掲載された論文には、人工知能(AI)がこうした状況にどのように貢献できるかを示すものだ。そして、AI研究者がなぜ他分野の実務家と協働すべきなのか、どのように協働できるか、時宜を得た例を挙げている。
優れた医師であり、新刊書『Deep Medicine: How Artificial Intelligence Can Make Healthcare Human Again(深層医学:AIを使った保健医療を再度人間的なものにする方法)』(2019年刊、未邦訳)の著者でもあるエリック・トポル博士は、「この研究は本当に先駆的なものでした」と述べた。トポル博士はネイチャー・デジタル・メディシンの共同編集者でもある。「執筆者は前人未到の分野に進んだのです」。
研究は、スタンフォード大学のAI研究者と、ユタ州ソルトレイクシティのインターマウンテンLDS病院(Intermountain LDS Hospital)の医療専門家との6年間にわたる協業の成果だ。ICUの患者を日々のタスクの間、継続的に観察するためにマシン・ビジョンが使われた。目標は、患者が体を動かす頻度と時間を受動的に追跡できる可能性を確かめることだ。ICU患者への初期の研究によって、運動によって治癒が加速し、せん妄が減少し、筋萎縮が防止されることが分かっている。だが、大規模に患者をモニタリングすることは困難なため、こうした研究の範囲は限定的だった。
研究では、7つの病室それぞれに深度センサーを設置し、3Dの輪郭データを毎日24時間、2カ月にわたって収集した。その後、研究者は輪郭データを分析するアルゴリズムを開発した。アルゴリズムは患者がいつベッドに上がり、降りたか、いつ椅子に座ったか、立ったかを把握できるよう …
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