幹細胞移植でHIV治癒か、世界で2例目
ロンドンの匿名の男性が、遺伝子変異を持つドナーからの幹細胞移植によってHIV(ヒト免疫不全ウイルス)が不検出となった世界で2人目の患者となった。ただし現段階では、「治癒」と呼ぶにはまだ時期尚早だという。
この患者は、HIV耐性を持たせる稀な変異遺伝子を持ったドナーから幹細胞の移植を受けた。 具体的にいうと、ドナーはCCR5遺伝子のあるバージョンのコピーを2つ持っていた。幹細胞移植の処置は約3年前に実施された。患者は18カ月間にわたって寛解状態が続いており、抗レトロウイルス薬も服用していない。ただし、患者の医師は「治癒した」と判断するにはまだ時期尚早だという。同処置の元々の目的はHIVではなく、がんの治療だった。この患者は2012年にホジキンリンパ腫と診断されていた。
遺伝子変異を持つドナーからの幹細胞移植によりHIVが検出されなくなったのは、この患者が初めてではない。ネイチャー誌で報告された今回の新しい研究により、2007年に類似の治療法でHIVが治癒したティモシー・ブラウン(またの名を「ベルリンの患者」)の前例が特異ではなかったことが示された。
この治療により、CCR5遺伝子を標的にして人にHIV耐性を持たせる手法が有望であることが示された。この手法は11月に発表されたもう1つの重大ニュースとも関連づけられる。そのニュースとは、中国で生まれた双子の女児「ルル」と「ナナ」の遺伝子が、クリスパー(CRISPR)を使って編集されていたというものだ。 中国の科学者である賀建奎(フー・ジェンクイ)元准教授は、HIVを含むいくつかの疾患に耐性を持たせようとして2人の胚を改変し、CCR5遺伝子を除去したのである。この試みが成功したかどうか、現段階ではまだ何とも言えない。
HIVとエイズの壊滅的な影響を考えると、今回の事例に大きな関心と期待が集まることは避けられない。 世界保健機関(WHO)によると、世界中で約3700万人がHIV(エイズ)に感染しており、1980年代にHIVが発見されて以来、約3900万人が死亡した。 治癒にはまだ遠い道のりだが、この事例により、将来どうやって治癒できるようになるかを垣間見れるかもしれない。