KADOKAWA Technology Review
×
人類は火星の空に「マーズ・グライダー」を飛ばせるか
NASA/JPL-Caltech
ニュース Insider Online限定
The future of Mars exploration may rest on a glider

人類は火星の空に「マーズ・グライダー」を飛ばせるか

数々の火星探査機によって様々な情報が得られたとはいえ、この「赤い惑星」についてはまだまだ謎が多い。アリゾナ大学の研究者らは、火星表面の広範囲にわたって詳細な地図を作成する方法として、空気注入式のグライダーによる探査を提案している。メインミッションの付帯プロジェクトとして実施することを想定しており、費用もわずかで済むという。 by Emerging Technology from the arXiv2019.03.01

ここ数十年間において、火星は太陽系で(地球の次に)もっとも探査が進んだ惑星となった。これまでにいくつもの訪問者を迎えている。実際、「赤い惑星」の表面や周囲では現在、8つのミッションが進行中だ。最も古いのは2001年に火星に到着した探査機「マーズ・オデッセイ(Mars Odyssey)」であり、2025年までの運用が想定されている。米国航空宇宙局(NASA)、それにおそらく他の宇宙機関が、火星の試料を地球に持ち帰ったり、最終的に人類を送り込むという目標に向けて活動する中、さらなるミッションが計画されている。

こうしたミッションの目標はいずれも、よい詳細な火星表面の地図を作成することだ。惑星探査車は地表の詳細情報を提供してくれるが、1日にわずか数メートルしか進めない。NASAの火星探査車「オポチュニティ(Opportunity)」は、役目を終えるまでに45キロメートルという大した距離を移動したが、それには15年近くを要した。

惑星科学者は、火星の表面をより短時間で探査できる方法を模索している。1つのアイデアとして、滞空能力のあるエンジンを搭載した飛行機を火星の大気中に飛ばすというものがある。そのようなミッションは長距離に対応できるが、費用は高騰し、3億5000万ドル以上かかる。

もっと安く済む方法としては、大規模なミッションとの抱き合わせがある。そこで、別のアイデアとして、周囲を調査できるクアッドコプターを火星探査車に取り付けることがある。しかし、そのような方法では飛行距離は短く、限られた範囲しか移動できないだろう。

必要なのは、別のミッションに便乗できる程度に小型でありながら、長距離に対応できる機体なのだ。

現在、アリゾナ大学で研究助手を務めるエイドリアン・ブースケラとアマン・チャンドラらのチームが、まさにそのようなミッションを提案している。同チームのアイデアは、動力を持たないグライダーを火星大気中に発射し、熱上昇気流(上昇する暖気の柱)で高さを稼ぎ、滞空させるというものだ。グライダーは空気注入式にして、火星への大規模ミッションプロジェクトの付帯プロジェクトの観測機器として運べる程度の容積にまで圧縮できる。

背景となる知識について少し説明しておこう。現在火星を周回している宇宙船は、1ピクセル当たり30センチメートルの解像度で画像を撮影できる。惑星科学者はそれらの画像を少しずつ組み立てて、比較的解像度の高い火星表面の地図を作成している。

しかし、将来の着陸ミッションの計画を立てるためには、さらに解像度の高い画像が必要となる。これまで、ほとんどの探査車は比較的平坦な面に着陸しており、大きな岩石やクレーターに衝突する可能性は低かった。しかし、比較的平坦な面は、科学的には、さほど興味深くない場所になりがちだ。惑星地質学者は、水の力で形成されたと思われる谷や尾根をぜひ訪問したいと思っているだろ …

こちらは有料会員限定の記事です。
有料会員になると制限なしにご利用いただけます。
有料会員にはメリットがいっぱい!
  1. 毎月120本以上更新されるオリジナル記事で、人工知能から遺伝子療法まで、先端テクノロジーの最新動向がわかる。
  2. オリジナル記事をテーマ別に再構成したPDFファイル「eムック」を毎月配信。
    重要テーマが押さえられる。
  3. 各分野のキーパーソンを招いたトークイベント、関連セミナーに優待価格でご招待。
人気の記事ランキング
  1. What’s on the table at this year’s UN climate conference トランプ再選ショック、開幕したCOP29の議論の行方は?
  2. This AI-generated Minecraft may represent the future of real-time video generation AIがリアルタイムで作り出す、驚きのマイクラ風生成動画
日本発「世界を変える」U35イノベーター

MITテクノロジーレビューが20年以上にわたって開催しているグローバル・アワード「Innovators Under 35 」。2024年受賞者決定!授賞式を11/20に開催します。チケット販売中。 世界的な課題解決に取り組み、向こう数十年間の未来を形作る若きイノベーターの発掘を目的とするアワードの日本版の最新情報を随時発信中。

特集ページへ
MITTRが選んだ 世界を変える10大技術 2024年版

「ブレークスルー・テクノロジー10」は、人工知能、生物工学、気候変動、コンピューティングなどの分野における重要な技術的進歩を評価するMITテクノロジーレビューの年次企画だ。2024年に注目すべき10のテクノロジーを紹介しよう。

特集ページへ
フォローしてください重要なテクノロジーとイノベーションのニュースをSNSやメールで受け取る