地球は誰のもの?高高度気球を使った「DIY地球工学」の悪夢
地球温暖化が進行する中、工学的手法で地球環境を改善しようとする「地球工学」が激しい議論の的になっている。地球工学の実践についてはこれまで政府主導の取り組みに焦点が当てられてきたが、個人が購入できるレベルの機器を使って大勢の人が一斉に実行する可能性が示された。 by James Temple2019.02.19
考えられるシナリオはこうだ。
時は2051年。10年におよぶ干ばつと凶作、飢餓で西アフリカでは数百万人が死亡し、各地で食料と水をめぐる武力衝突が発生している。世界各地に同様の荒廃と惨状が見られる。
こうした状況に対し、環境団体か人道支援団体、または、ソーシャルメディアで大きな影響力を持つ一個人が、ある過激な対応を呼びかける。太陽から届く熱を大気圏外へ反射する少量の粒子を搭載した高高度気球を市民一人一人が空に放とう、と。
このような分散型のDIY地球工学(ジオエンジアリング)計画は技術的には実行可能に思える。そこで、この類のテクノロジーは規制可能なのか、という厄介な疑問が生じる。こうした点を指摘したホワイト・ペーパーが、ハーバード・ケネディスクールの研究機関であるベルファーセンターのWebサイト上で2018年末に公開された。
すでに、無人高高度気球のホビーキットはわずか25ドルで購入できる。ソーシャルメディアやブロックチェーン、クラウド・ファンディングサイトを利用して前述のようなキャンペーンを展開するのは可能だとホワイトペーパーは指摘する。
ヘリウムに数キログラムの二酸化硫黄を混ぜるだけで、高高度気球を地球工学機器に作り変えることができる。ヘリウムと二酸化硫黄の混合ガスは成層圏で硫酸に変換され、熱を放出する。気球は上昇するにつれて内部に圧力がかかり、上空20キロメートル付近で爆発し、気球内の粉末を大気圏にまき散らす。
ホワイトペーパーではこれ以外にも、地球工学関連の厄介なシナリオがいくつか想定されている。たとえば、各国が勝手に取り組みを開始するというシナリオだ。このシナリオは戦争を誘発する可能性があると考える研究者もいる。 比較的コストが低く、必要なテクノロジーがシンプルなことを考えると、富裕層が個人的に実行に移すことも可能だ。カリフォルニア大学サンディエゴ校の国際法制度規制研究所で共同所長を務めるデヴィッド・ヴィクター教授は、この可能性を「グリーンフィンガー」シナリオと呼ぶ(実際、カリフォルニアの実業家が2012年に、二酸化炭素を吸収する植物プランクトンの育成促進を目的に海に鉄を放り込み、国際論争を巻き起こした)。
今回発表されたホワイトペーパーは基本的に、これまで懸念事項として広く認められていなかった類のシナリオを追加するものであり、これまで考えていた以上にテクノロジーの規制が困難になる可能性を …
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