「アパッチ」の開発者はブロックチェーンで公正な社会を実現できるか?
20年前、ブライアン・ベーレンドルフはWebの立ち上げに関わった。現在、ベーレンドルフはビットコインを支えるテクノロジー「ブロックチェーン」で、世界をより公正にしようとしている。 by Tom Simonite2016.11.02
適切なソフトウェアがあれば社会はもっとよくなる。なんていうことを経験豊富な技術者が主張するのは青臭い、とブライアン・ベーレンドルフは知っている。それでもベーレンドルフはそう信じているのだ。
「テクノロジーを信奉する人なら誰にも、世界がどれだけ壊れた状態であるか、やり場のない感情があるのです。官僚制度の堕落や効率の悪さは、ある意味、テクノロジーの問題です。この問題を直せないのでしょうか?」と問いかける。
今夏、ベーレンドルフは明らかに人間に由来する問題を解決するテクノロジーが現れたことに賭けることにした。創業期のフェイスブックに投資した億万長者ピーター・ティールのためにベンチャーキャピタリストとして働く安楽な仕事を捨て、ベーレンドルフは現在サンフランシスコにあるブロックチェーンのオープンソース開発を支援する非営利団体「ハイパーレッジャー・プロジェクト」を率いている。ブロックチェーンとは、取引の検証と記録を通してデジタル通貨「ビットコイン」を支える、ある種のデータベースのことだ。
多くの政府機関や大企業がブロックチェーンの使い道を模索してきたのは、デジタル通貨を使いたいからではない(ビットコインは普及しそうにない)。通貨以外のデータを扱えるのではないか、と考えたからだ。ブロックチェーンは金融取引と同様に、幅広い範囲の物事を取引として扱えるのではないか。デジタル医療記録や製造業のサプライチェーンの効率を高め、強力な証拠能力などが備わるのではないか、と考えられているのだ。
ブロックチェーンは取引データを長期間記録できるデジタル出納簿だ。しかし、ブロックチェーン上の記録は暗号化されており、事実上削除(改ざん)不可能にできる。特定のグループや企業、共同で働く個人が操作できるように設計できる一方で、どの当事者もシステムやそのデータを制御できないようにできる。
この性質によって、企業が協力して活動しやすくなると考えられている。各社が自社専用の内部システムに鍵をかけ、データをしまっておく代わりに、各社のデータを安全な方法で共有の中立システムに預ければよい(会計簿は不要になる)という主張まである。金融機関による最近の調査では、次世代ブロックチェーンに関わる最初の有力業界は、ブロックチェーン構想に今年10億ドルを投じるだろうという。
ハイパーレッジャーはブロックチェーンの動作に必要なソフトウェアの開発を加速するための組織であり、IBMやJ.P.モルガン、エアバス等、約100社が支援している。ベーレンドルフは、ブロックチェーンには大企業の商業活動にとどまらない付加的な長所があるという。ベーレンドルフはテクノロジーで政府や公共インフラを改善しようとしたが、遅々として進まなかった経験があり、当時を思い返し、ブロックチェーンがあれば、そうはなら …
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