脱・現金大国へ
日本はブロックチェーンで
生まれ変われるか?
世界有数の現金大国である日本が、キャッシュレス社会の実現へと動き出した。クレジットカードなどの既存の決済手段の普及が遅れている日本は、先進的なテクノロジーを一足飛びに導入して成功できる可能性がある。 by Mike Orcutt2019.03.18
日本人には、「現金払い」というぜいたくな習慣がある。
世界第3位の経済大国では、ほとんどの支払いに紙幣と硬貨が使われている。クレジットカードやデビットカードの普及する西欧諸国だけでなく、さまざまな「キャッスレス」電子決済が普及する中国や韓国とも、日本は一線を画す。
つまりこれは、日本にはキャッシュ・レジスターだけでなく、相当な数のATM(おそらく20万台以上あるだろう)が存在し、現金輸送車が至る所を走り回っていることを意味する。年間コストは180億ドルに上り、そのほとんどを金融業界が負担している。
東京オリンピックが開催される2020年には、クレジットカードや電子決済が普及する国々から数十万人の外国人観光客が日本を訪れるだろう。オリンピックの開催期間中に、外国人観光客が消費する金額は数十億ドルと予想されるが、日本の金融システムでは処理しきれず、数億ドルもの資金の処理が遅れる可能性がある。
安倍晋三首相は、キャッシュレス決済の比率を2025年までに40%に引き上げる目標を掲げている。2018年8月、日本政府は、賛同する企業に減税や補助金を出す計画を発表した。クレジットカード決済からQRコード決済までが対象となるが、一部の巨大金融企業は日本での現金払いをなくそうと、ビットコインの基礎となるテクノロジーの活用を目論んでいる。
総資産で世界第5位の規模を誇る日本最大の銀行、三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)は、米国インターネット会社アカマイ(Akamai)と提携し、オリンピックまでにブロックチェーン・ベースの小口資金決済ネットワークを構築する。成功すれば、史上最速かつ、最も強力な小口資金決済ネットワークとなるだろう。MUFGとアカマイは、実証実験では1秒間に100万件以上の取引処理と2秒以内の取引確認を実現しており、最終的には1秒あたり1000万件を処理できるようになると主張している(一方、Visaのクレジットカード・ネットワークの1秒あたりの取引処理件数は数千件だ。ビットコインの取引処理件数は、最高でも1秒間に約7件であり、各取引の確認には最長で1時間かかる)。このシステムは、高速道路の自動料金収受システムから、磁気カード読み取り装置、アプリ内購入まで、あらゆる種類の決済処理ができるように設計されている。
独自の暗号トークンの実証実験をしているのは、MUFGだけではない。大手銀行持株会社のみずほフィナンシャルグループは、「Jコイン構想」と名付けたプロジェクトの一環として、数年にわたるブロックチェーン・テクノロジーの実証実験を進行中で、3月には少額決済が可能な独自の電子通貨を発行する。大手金融サービス会社のSBIホールディングスは、Sコインと呼ばれる少額決済にも使える独自のトークンを構築しているという。
日本社会がデジタル・キャッシュを使い始める用意があることに、これらの企業すべてが賭けている。日本社会は比較的テクノロジーに精通している上、ここ数年は暗号通貨取引が独自に普及し、金融規制当局は世界の他のどの国よりもブロックチェーン技術に精通している。政府によるキャッシュレス化を推し進める圧力に加え、クレジットカードなど他の電子決済方式との競合がほとんどないため、日本は現在の電子決済ネットワークの基盤となるテクノロジーを飛躍的に拡大し、直接ブロックチェーンに進む可能性がある。
実験がうまくいけば、日本経済が再構築される可能性がある。銀行間の大規模な取引から小規模な小売購入まで、遅延もほとんどなく、現在の何分の一かのコストで実行できるかもしれない。現在のクレジットカード決済はそれに比べればスピードが遅く、費用もかさむだろう。
その過程で、日本は、暗号台帳やコンピューター・ネットワークを用いれば電子通貨を作り出せるというここ10年来の考えが正しいかどうかが試される世界最大の実験場となるだろう。金融とテクノロジーの両方で世界的なリーダーとしての地位を …
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