自動運転の第一人者がテクノロジーをオープンソース化する理由
ロボット工学の先駆者であるセバスチアン・スラン教授がオープンソースの自動運転車を開発した。 by Tom Simonite2016.10.27
スタンフォード大学のセバスチアン・スラン教授(ロボット工学)の3度目の自動運転車プロジェクトが前回までの2度のプロジェクトのように影響力を持てば、誰も予想しなかったほど近い将来、人類は免許証を破り捨てることになる。
スラン教授はペンタゴンが2005年に開催した自動運転車のコンテストで優勝した。これがきっかけで自動運転テクノロジーの商業化を目指した競争が始まった。スラン教授はその後、グーグルの自動車プロジェクトを立ち上げて責任者を務めた。グーグルの自律自動車の累計走行距離はどの競合他社よりも長い。
スラン教授が現在取り組んでいる自動運転車プロジェクトは思いもよらない方向からやってきた。スラン教授が立ち上げたオンライン教育スタートアップ企業ユダシティだ。また、今回の自動運転車プロジェクトにはスラン教授の過去の取り組みがいくつか利用されており、ユダシティのロゴ、カメラ、回転するレーザーが装備したリンカーンのスポーツ車は、すでにサンフランシスコのベイエリアを走り回っている。しかも、自動車を操縦しているソフトウェアはオープンソースとして無料配布される予定だ。さらに走行中に収集したデータは誰でも利用できるように公開される。
スマホ市場との類似性になぞらえて、スラン教授は自社の独自戦術が自動運転車の発展を加速させるという。自動運転テクノロジーに取り組むグーグルや他の企業は、通常、プログラムコードやデータを公開しない。
「グーグルはiPhone(のような自動運転車)を作り出し、当社はアンドロイドを作っているわけです。ソフトウェアを誰もが利用できるようにすれば、新規参入者は自身の自動車を作り出す負担を減らせます。これはまさに、アンドロイドがスマホの発展を加速させたのと同じことです」
ユダシティは自社の自動車プロジェクトの開始に伴い、1月に新しい自律自動車工学の講座を開始する。自律自動車のテストを始めるのに必要なコードはユダシティのエンジニアが書いた。ユダシティは現在外部からの協力を求めており、自動車に搭載されているカメラから送られるデータの解析能力を向上させるなど、一連の課題に対する最も優れた提案に対して賞金を提供する(外部からの協力で得たいくつかのデータは、ユダシティの自動車内部にすでに組み込まれている)。この講座の受講生も9カ月間の受講中にコードを改善できる。受講費は2400ドルだ。
皮肉にも、ユダシティと非常によく似た企業のいくつかはユダシティを支援しているが、スラン教授はユダシティの車が新しい競合他社のプレッシャーにさらされることを期待しているのだ。ユダシティは「ナノディグリー」(小さな卒業単位の意味)という複数の分野の講座を開設しており、テクノロジー産業はそれぞれの講座の分野に関する優れた技能を持つ労働者を何が何でも雇いたがっているのだ。企業はユダシティと協力して講座の教材を製作する手助けができる。その見返りとして、仕事を探している卒業生を優先的に採用できる。
ユダシティは自動運転車の「雇用パートナー」として14社(BMW、メルセデス、ウーバーの自動運転トラック部門であるオットーなど)を挙げている。
プリンストン大学運輸研究所のアラン・コーンハウザー所長は、ユダシティの開かれた取り組みを歓迎しているという。コーンハウザーによれば、自動運転車産業がテスト運転のデータを共有する方法を開発すれば、このテクノロジーは、自動運転に取り組む企業が最終的なメリットとして好んで挙げる、道路での死亡事故を大きく減らせる段階に早く到達できるという。
交通事故は比較的まれであり、道路と混雑の状況は非常に変わりやすく複雑であるため、課題となる「ほとんど発生しない事例」すべてを自動運転のシステムに経験させるには膨大な走行距離が必要になる。しかし、自動運転システムは希有な事例に対処する必要があるのだ。「重要な情報を共有する方法を見出す必要があります。そうすれば、誰もが同じ過ちをしなくて済むのです」と、コーンハウザー所長はいう。
米国運輸省は9月、自動運転車のガイドラインを発表した。ガイドラインによると、自動車メーカーはデータのいくつかを共有する計画を作成することが求められる(「自動運転にブラックボックス 米国が新規制を発表」参照)。 しかし、これまでのところ、情報を公開する準備が整ったと名乗り出た企業はない。「現在の市場にいる企業は、ソフトウェアやデータを全く公開せず、データもほとんど共有しないのです」とスラン教授はいう。
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クレジット | Images courtesy of Udacity |
- トム サイモナイト [Tom Simonite]米国版 サンフランシスコ支局長
- MIT Technology Reviewのサンフランシスコ支局長。アルゴリズムやインターネット、人間とコンピューターのインタラクションまで、ポテトチップスを頬ばりながら楽しんでいます。主に取材するのはシリコンバレー発の新しい考え方で、巨大なテック企業でもスタートアップでも大学の研究でも、どこで生まれたかは関係ありません。イギリスの小さな古い町生まれで、ケンブリッジ大学を卒業後、インペリアルカレッジロンドンを経て、ニュー・サイエンティスト誌でテクノロジーニュースの執筆と編集に5年間関わたった後、アメリカの西海岸にたどり着きました。