KADOKAWA Technology Review
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Work in Transition

人工知能とロボットは人間の仕事をどう変えるのか?

デジタルテクノロジーは私たちの働き方を変えている。このことは、仕事の将来の何を意味しているのだろう? by Nanette Byrnes2015.09.28

5年ほど前、機械学習は、上級弁護士のサポートがあれば、締切に追われやすい証拠開示手続(米国の民事裁判では、公判前に証拠の全てを精査し、相手方に何を開示するかを決定する)を、ソフトウェアが効率よく代行できるようになった。

証拠開示手続は、多くの弁護士事務所で、経験の浅い弁護士やパラリーガル(弁護士の補佐役)、比較的費用が安い契約法専門の弁護士(最近多くなった)によって処理されているが、一部では法制度のコンピューター化の第一歩になるのではと心配する声もある。しかし、経済学者でマサチューセッツ工科大学(MIT)のフランク・レビー名誉教授は、機械学習は関連性のある言葉を探したり、すでに確認されている文書に類似する文書を処理をしたり、さらには野球の試合の概要の簡単なまとめなど、体系化した作業には向いているが、説得力の有無が斬新な論拠の展開を左右することもある法律文書を作成するレベルには達していない、という。レビー名誉教授はノースカロライナ大学法学部のデイナ・レムス教授と共同で、コンピューターが法律業務に与える影響について研究している。

レビー名誉教授は「自分の主張を有利に見せようとする法律文書はあまり体系的ではないのです」という。レビー名誉教授は、コンピューターがどのように雇用システムと労働市場を変えているのかに関する『労働の新部門(The New Division of Labor)』を(ハーバード大学のリチャード・ムーネーン教授との共著で)刊行している。レビー名誉教授は「イノベーションに追加料金をつけることになるのです」という。

人間の仕事は今後ますます機械があまり持ち合わせていない、革新的アイデアや柔軟性、創造性、ソーシャルスキルが必要になるだろう。オックスフォード大学が自動化について最近発表した研究では、研究者がどれだけの創造性、ソーシャル知能、細かい作業の量が必要かを基に、ある仕事がコンピュータ化されるかどうかを数値化した。振付け師、小学校教師、精神医学のソーシャルワーカーの仕事は恐らく心配ない。一方、電話セールスや確定申告の代行などはコンピューターに取って代わられる可能性が高い。

多くの職種は電話セールスのようにはならないだろうが、人は人間が得意とする職務に従事するようになり、法則があったり予想可能な作業は自動化されていく。

新しい仕事の形態で、仕事がどう進化していくのかの問題提起を検証するのが、オックスフォード大学の研究の目的だ。

私たちの従事する仕事の種類の変化に加え、デジタル、モバイルテクノロジーはどのように、そしてどこで(自宅あるいはネット経由で)働くか、また競争相手の顔ぶれまで変えている。フリーランスで働く人たちをつなぐプラットフォームであるアップワークの法人顧客の50%は米国内だが、実際に仕事を受ける米国人は20%しかいない。グローバルな人材競争が始まると高い賃金を稼ぐのは難しくなる可能性がある。

アップワーク、タスクラビット、ウーバー、エア・ビー・アンド・ビーなど、フリーランスで働く人と客をつなぐプラットフォームは新しい種類の労働市場を作り出している。コンサルタントのサンジート・ポール・コウダリーはこれを「ネットワーク化された仕事」と呼んでいる。この種類の労働環境では、働く人の自己の能力促進や従来雇用者が担ってきたさまざまなリスクは自分の責任になる。事業はプラットフォーム頼りになるが、顧客さえ満足すれば高い評価を得られる。

このネットワーク化モデルはあまりに人々を混乱させたため、ウーバーの参入により地元のタクシードライバーの収入が減ったのが原因で、中国の天津ではついに暴動まで引き起こした。ウーバーのドライバーのほとんどは副収入目当てにパートで働いている。ウーバーによると、中国での1日のウーバーの利用者は100万近くになる。経営者側は今年中に100以上の都市にサービスを拡大するために、11億ドル以上の投資を予定している。自動車を運転する仕事はなくなってはいないが、その方法は変化しており、痛みを伴う。

オライリー・メディアのティム・オライリーCEOはブログで、テクノロジーは新しいタイプの仕事を生み出し、仕事の質を向上できるという。たとえば、モバイルやセンサーテクノロジーは医療従事者を援助したり、高齢者が老人ホームに行かなくて済むようになる。一方で機械学習は医師の診断の支援できる、ともいう。

自動化により、一部の仕事はなくなるだろう。しかしテクノロジーは別の新しい仕事を生み出す可能性もある。

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ナネット バーンズ [Nanette Byrnes]米国版 ビジネス担当上級編集者
ビジネス担当上級編集者として、テクノロジーが産業に与えるインパクトや私たちの働き方に関する記事作りを目指しています。イノベーションがどう育まれ、投資されるか、人々がテクノロジーとどう関わるか、社会的にどんな影響を与えるのか、といった領域にも関心があります。取材と記事の執筆に加えて、有能な部下やフリーライターが書いた記事や、気付きを得られて深く、重要なテーマを扱うデータ重視のコンテンツも編集します。MIT Technology Reviewへの参画し、エマージングテクノロジーの世界に飛び込む以前は、記者編集者としてビジネスウィーク誌やロイター通信、スマートマネーに所属して、役員会議室のもめ事から金融市場の崩壊まで取材していました。よい取材ネタは大歓迎です。nanette.byrnes@technologyreview.comまで知らせてください。
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